選考委員会(日本児童文芸家協会)の総評
今回初めて、当協会が[ガラスの森 童話賞]の選考をお引き受けしました。公募期間が短く、原稿枚数も少なかったので、どんな作品が集まるか、多少の不安はありましたが、予想以上の力作が揃い、読み甲斐、選び甲斐のある選考となりました。
選評者:日本児童文芸家協会 正岡 慧子さん
最優秀賞:「とんでった おへそ」の選評
絵本というのは、物語を読むだけではなく、目で見る、あるいは絵を読む、というような要素が必要です。この作品はその両方を兼ね備えており、「おへそ」というキャラクターが読者に身近な存在として親しまれるでしょう。主人公の大輔くんとおへその関わりは、とても自然でほほえましく、雷さまのやさしさも作品を明るくしています。文章に無駄がなく、リズム感があって読みやすい。おへそ君がどんな絵になるだろうかとワクワクします。
佳作:「おかしの国にごしょうたい」の選評
主人公のえみちゃんは虫が大嫌い。だけど、お菓子は大好き。ある日、お菓子の招待状を食べたえみちゃんの前に、すてきなお菓子の国の王子様が現れます。だんだん心をうばわれていくえみちゃんですが、突然蟻(アリ)がでてきて…。甘い衣の中に、ちょっとしたビターを仕込んで、奇妙な魅力を持つ作品に仕上がっています。17歳という年齢でなければ表現できない作品かもしれません。
佳作:「キレイだねって言われたい」」の選評
宇宙のごみデブリたちは、美しい地球に恋をしています。コクハクをするために、地球に向かっては消えていくデブリたち。そんな彼らを見て、ブリキのデブリは「みんな自分のことをキレイだって言われたいんだ」と恋の本質を悟ります。主人公はなかなかの哲学者ですね。実際に宇宙には無数のゴミが存在しています。そんな現実を、このような壮大なお話に変えられるのは、あなたの心の中にある空想の部屋が広いと言うこと。ステキです。
佳作:「風をくれた仙人」の選評
この作品は最後まで最優秀賞作品と競いました。昔話風に創られていますが、プロットは大変よく考えられています。風を描く仙人、その絵はただまっ白なだけ、でもそれはやはり…。予想を裏切る伏線もあり、人間性が希薄な現代社会にあって結末も実にすがすがしい。爽やかな読後感を持つ、優れた作品です。
選評者:日本児童文芸家協会 山本 省三さん
最優秀賞:「とんでった おへそ」の選評
雷がこわくて、おへそがお腹から逃げ出すというユニークな展開の童話。しかし、その過程には無理がなく、『なるほど』と読み手をうなずかせます。隠れてしまったおへそをおびき出すため、おへその持ち主が雷の協力を乞うのも愉快。子どもから大人まで楽しめる童話に仕上がっています。問題は、「この作品がどんな絵本に仕上げるか」です。擬人化したおへそ、さあどんな姿になるのか、とてもわくわくしています。
佳作:「おかしの国にごしょうたい」の選評
お菓子が大好きで、虫が大嫌いな女の子が体験するシュールな世界。ストーリーの3分の2までは、お菓子の王子やジュースの湖など、よくあるメルヘンの世界が登場。主人公とともに夢心地を味わわせてくれます。しかしラスト直前、物語は一変します。これは結構衝撃的で好き嫌いが分かれる作品といえましょうが、読者の予想を大きく覆す結末は、なかなかおもしろく、不思議な読後感がありました。
佳作:「キレイだねって言われたい」」の選評
地球から宇宙へ放たれたさまざまな物の残骸。それが地球のまわりを漂いながら、地球に思慕の情を抱くとは、何ともロマンチックな発想。そして、もっと地球に近づこうとすると燃え尽きてしまうエピソードは、人間の恋愛模様とも重なり、哀しさをにじませます。この作者が目指すところは大人の童話なのかも知れませんが、少し気になったのは、『見た目がきれいならいいのか』ということ。それだけではない美しさにもこだわってほしいと思いました。
佳作:「風をくれた仙人」の選評
昔の中国を舞台に、市場で謎の老人から何も描かれてない紙をもらった主人公の心の変化。淡々と書かれた文章ですが、エピソードにも無駄がなく、構成は大変良く練られています。結末も秀逸で、読む者の心にも爽やかな風が吹き渡ります。ただ、目に見えない風を扱っており、絵本にするより、文字で読むべきということから、絵本化されない佳作になりました。しかし、作品の内容は最優秀賞作品と肩を並べるものでした。


