素性のはっきりしたものを選ぶ、野菜も電気も。
節電モードのライフスタイルを心がけられている木原家の「エネルギー消費家計簿」(4/16投稿記事)、興味深く拝見しました。月々の光熱費やその内訳、CO2排出量などは、一筋縄ではいかないものがありますね。ご苦心のほどが伺えました。
そのうち、木原家と同様な条件にあるドイツ家庭の光熱費経年データをお出ししますね。
従来、ドイツでは、電気や水、ガスの検針は年1回のみで、前年の年間使用量を12で割った定額料金を月々支払ってから精算する、が慣行になっていたため、一般ユーザーには月ごとの使用量や季節や時間による変動は把握できませんでした。
でも、2010年に、新築や大きな改修をした既存住宅にはスマートメーターの設置が義務づけられ、家庭のコンピュータ上でも電力消費状態が常時把握できるようになっています。
いま日本で進められようとしている電力システム改革・電力小売りの全面自由化を、欧州連合(EU)は1997年に着手しています。ドイツはその翌年にまず電力市場を、2004年にガス市場を自由化しました。
企業も家庭も、その立地や居住地域にとらわれることなく、回線は既設のものをそのまま使いながら、それを販売する業者、さまざまにブランディングされた電力メニューを選べるようになりました。
1998年のドイツは、電力会社の売り込み広告であふれかえるようでした。
街角には電力大手の「私は、この電気にします!」という大きなキャンペーン・ポスターが貼り出され、郵便受けには「3か月間、格安料金のお試し付き!」などと大書きされたチラシやDMがいくつも投げ込まれました。
すでに1995年に郵便事業改革・通信分野の民営化があり、ドイツの多くの人は、そのときに電話やインターネットの接続業者選びや随時変動する電話料金の新システムへの対応などで練習済みでしたから、電力会社選びにはそれほどの混乱はありませんでした。
ただ、そのときわたしは、<電気>というものが売り買いの対象となる<商品>となり、自分がこれまでとどこか意味合いの異なる<電気消費者>となったことに虚をつかれました。電気や水、ガス、住宅、といった生活基盤がそんなふうに扱われていいんだろうか、と。
幸い、テュービンゲンには信頼できる地元の公益事業体がありました。
そこが設定する料金は、大手の電力会社よりはずっと割安でしたが、もっと安い料金を提示している会社はいくつもありました。でも、乗り換える気は毛頭起きませんでした。
決め手は、電気の中身と企業姿勢です。
1911年以来、目の前を流れるネッカー川で発電しつづけてきた小水力発電所からの電気と、市内に5か所ある熱電併給プラントからの電気が、この会社の総販売量の4割を占めていました。残り6割は、電力取引所やスイスの発電所から仕入れた、その80%を原子力と石炭火力が占めるミックス電気。
どこから来るかが目に見える、素性がはっきりした<地産地消>成分は、残念ながらまだ4割。でも、いつか、この比率が逆転するだろうことが期待できました。
当時の社長はこんなことを言っています。
「エネルギー供給事業は、その土地固有のインフラをどう形成していくかというコンセプトとプロセスに密接に関わり、職人仕事にも似て、地域固有のノウハウを持つものであるはずだ。
テュービンゲンは小粒のまま我が道を行く。ダンピングや顧客獲得合戦には参加しない」この言葉には、未来がありました。
2010年の、テュービンゲン市公益事業社が販売する電力の成分配合は下のグラフのようになっています(小数点3位以下四捨五入)。

天然ガスは化石燃料ですが、高い効率の熱電併給(コジェネレーション)システムで暖房給湯用の熱と同時に発電もすれば、石油、石炭、褐炭に較べてCO2排出量が少なく、気候に与える負荷の少ない<やさしい電気>のひとつになる、とみなされています。
ドイツ全体の平均(2010年)はこのようになっています。

1999年にドイツ第3位の大手エネルギー企業の傘下に設立されたこの会社は、110万の顧客を持ち、業界では10指に入ります。

企業の経営方針によって、電気の成分配合の比率がかなり変わることに気づいていただけたと思います。
3つの例それぞれのCO2排出量と放射性廃棄物量の比較です。

このような製品情報は、開示が義務づけられていますから、企業のHPにも、料金のお知らせやDMなどにも必ず掲載されています。料金とともに、電力会社選びの判断材料になります。
テュービンゲンの公益事業社は、上に挙げた成分配合のベーシックメニューの外に、「少し上乗せして払っても、再生可能エネルギーだけの電気がほしい」というユーザー向けに、ふたつのメニューを用意しています。
ひとつは小水力発電所で起こした電気100%の「ブルーグリーン」、もうひとつは、水力や風力など再生可能エネルギーのみをミックスした「エネルグリーン」。
「ブルーグリーン」のロゴの色は「エコガラス」とそっくり同じ、ブルーとグリーンです。
福島原発事故の後、このメニューに乗り換える人がとても増えました。
わたしも契約している「ブルーグリーン」ブランドは、基本はネッカー川にかかる4つの水力発電所(写真はそのひとつ)から、不足分をオーストリアの川から輸入して補充した、水色100%の電気です。

日本でも、再生可能エネルギーのエコな電気を買いたい、という人が増えていると聞きます。
でも、電源別の送配電網というものは存在しませんから、実は、わたしの<水色電気>も、灰色や茶色の電気といっしょになって送配電網という長~い<どんぶり>の中をうちまで流れてくるんですね。小売業者は、卸し市場からその割合を計算配分して購入、販売する、いわば、計算マジックのようなものです。
混じりっけのない、再生可能エネルギー源直送のクリーン電気は存在しないんですね。
ただ、よろこばしいことに、とっても大事なポイントがその先にあるのです。
なんだか「エレキおばさん」にでもなったような気分ですが .........わたしの電気シリーズ、まだまだつづきそうです。