窓から見える青い空。この空がいつまでも続くように、いろいろ考えたいエコのこと。というわけで、エコ先進国と言われるドイツ、デンマークにお住まいのおふたりにも参加いただき、エコについてのよしなしごとを楽しく気軽に、でも真剣に語り合います。
今日もエコ日和

筏(いかだ)日和


その日、わたしは朝からもうウキウキでした。
黒い森地方の<ネッカーの筏>保存会の人たちがテュービンゲンにやってきて、目の前で筏を
組み、流す、というのです。

これまでも何度か、この町のシンボルともなっているレトロな小水力発電所や、あひるレース
や棹漕ぎ木舟のことなど、ネッカー川にちなむ話を書いてきましたが、この川は、バーデン・
ヴュルテンベルク州(テュービンゲンがある、ドイツ南西部の州)内を、南から北に、ずうっ
と流れています。
水源は黒い森地方南部の湿原、そこからテュービンゲンやシュトゥットガルトを経て、ハイデ
ルベルクの先でライン川に合流、ラインの流れはさらに北西に向かってオランダに入り、ロッ
テルダム近くで北海に注ぎ込んでいます。

昔も今も、流域の町や村にとって、そこに住む人びとにとっても訪れる人にとっても、とても
大きな存在のネッカー川。川の自然生態系や景観の保全、生活文化と歴史の伝承に取り組む市
民団体がいくつもあり、活動を展開しています。

この「我らがネッカー」に州民がさらに親しむように、そして、エコロジカルな保全と開発を
より推進していこう、と、水源からライン合流地点まで、州をあげての一日イベントが、9月
末の日曜日に行われたのです。
主催は州の環境・気候・エネルギ―省。流域の14の自治体と数多くの市民団体が企画したプ
ログラムは130以上。自然生態系観察、カヌー体験、沿岸ハイキングやサイクリング、橋や水
力発電所ガイドツアー、春の洪水で損壊した堤防補修作業、川にちなむ絵や作文の発表会な
ど、多彩です。
テュービンゲンでの筏デモンストレーションもそのひとつでした。


早朝から筏組み立て作業が進められました。
丸太の先端にうがたれた孔に、ハシバミやトネリコなどの若枝を強化加工したロープを通し、
7本並べ結わえて1枚に。それを縦に6枚つなぐと、1艘の筏が仕上がります。


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組み立て作業が終わり、手荷物などを棒に吊るして、そろそろ出発です。
白いシャツに黒のチョッキ、筏師のユニフォームは大工さんのそれと似ています。
膝の上まである黒革長靴は、水が入らないようにとの実用と、筏師を筏師らしく仕立て上げ
る見せどころ。
黒い帽子に花や木の実を一枝挿しているのは、わたしの隣りで見物していたおじさんが言う
には「そりゃ、やっぱり、ね、いろいろあるでしょ」だそうです。はあ、なるほど。


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全長40mほどの筏が静かに流れていきます。
後ろから2枚目にブレーキの役割を果たす角材が見えます。
時速、どれぐらいかしら?
「流れの速度と同じだよ」、やはり、隣りのおじさんがニヤッと笑って即答。
はあ、ごもっとも。
実は、町外れの組み立て現場での見物人は、筏師にヤジなど飛ばしながら作業を見守るその
人とわたしのふたりだけでした。物知りおじさんはわたしのどんな質問にも答え、さまざま
なことを教えてくれました。


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中洲に上がった筏師、つまり保存会メンバーの紳士一同、筏師の歌を披露します。
わたしにはまったく理解できない歌詞ですが、きっと、雨風や寒さや、急流や堰き、岩など、
たくさんの困難や危険を一蓮托生で乗り越える荒くれ男の心意気や仕事を終えて歩いて村に帰
る道すがらのワインやパイプ煙草のうまいこと、といったバラードではないか、と想像するの
ですが、さあ、どうでしょう。

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中州のプラタナスの木の足元に、筏師の必携道具が展示されています。
斧、丸太を結わえる若枝ロープ、そして、やっぱり黒革長靴。


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朝からわたしがウキウキしていたワケ、そうです、これです。
これまで、中世から近世にかけて建てられた家の梁の端のほうに、このようにうがったフ
シギな孔を見かけることが何度かあったのですね。
あるとき、ある建築家が「丸太を結わえるための孔ですよ。黒い森から筏にして運ばれて
きた木材だということが、これで分かります」と教えてくれました。
ナゾが解けました。以来、その筏をいつか見てみたいとずうっと思ってきたのです。


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筏流し見物のあと、中世都市考古学者のティルマン・マルシュタラーさんの案内で旧市街の歴
史建築巡りです。20人ほどが彼のあとを付いて歩きます。
「ほら、この梁のここ、筏材であることを示す孔があるでしょう」などと指し示しながら、マ
ルシュタラーさんは、1477年の大学創設という<一大プロジェクト>を校舎建設の側面から
語っていきます。
その建材に、それまで一般に用いられていたミズナラに代わって黒い森地方から「輸入した」
モミとトウヒが用いられた理由、当時の木材流通の仕組み、わずか3年の間に大規模な幾棟も
のの建設が可能となった経緯、梁の長さや屋根の傾斜角度などの建物の特徴、筏師の仕事ぶり
など、彼の研究成果をたのしげに物語っていきます。
幅3~4メートル、全長300mほどにもなる筏がつぎつぎとネッカーを下ってくる --------
どんなにか美しく、壮観であったことでしょう。

運ばれるものそれ自体が輸送手段となって、丸太の浮力と水流で目的地に向かうエコロジカル
&エコノミカルな筏 -------- ネッカー川の筏流しは、14世紀から、木材輸送が鉄道にとって代
わられる19世紀末年までつづいた、流域の産業遺産、生活文化遺産です。
17~18世紀には、黒い森の大木はアムステルダムやロッテルダムの都市・港湾建設材として
大量に輸出され、積み荷のコバルト(デルフト焼きのあのブルーです)や樹脂、樹皮など他の
黒い森特産品とともに地元に大きな富をもたらしてもいます。



投稿者:森さん  カテゴリー:
2013年11月11日


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2011年夏から協会に参加。省エネ担当。技術開発出身で戸惑うことが多く、右往左往しています。ミステリー、オーディオとペットとの散歩が趣味。

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