小さな春の探索

やっと春になりました。アフリカからヨーロッパを縦断してきた温かい空気がデンマークへ到達して、気温が急に上昇しました。背の高い樹木が大きく揺れるほどの強い風が吹いて、嵐になるのかと思いましたが、「春一番」です。そして1日ずつ太陽の輝きが強くなり光が温かくなり、氷も雪もすっかり消えました。春分の日からは明るい時間が長くなり始めて、季節が移ったのを感じます。

小鳥たちの鳴き声が春のさえずりに、カラスやカササギは小枝を集めて巣作り、水辺では今年も白鳥が大きな巣を据えています。リスは朝早くから樹木の枝から枝へ飛び跳ねて餌探しに大忙し。庭では2月からずっと咲いていた黄色の節分草や白い待雪草とスノーフレークにクロッカスが仲間に加わりました。森では落ち葉の間から緑が現れ、小さな黄や青の野花が咲き始めています。
氷点下の日が続いた寒い間は、森さんのお話のドイツと同じように、デンマークでもインフルエンザが流行りました。2週間寝込んだ人もいたほど、しつこいインフルエンザだったようです。またまた森さんと同じく、私も寒さに負けず自転車移動で、インフルエンザを回避することができました。冬が終わりを告げて、インフルエンザで咳き込む人が少なくなったら、ヘーゼルナッツの花が咲いて、花粉症のくしゃみが始まりました。
天気予報で紫外線の注意があった日は、朝から青空が広がり、太陽の光が燦々と輝く風景になりました。午後には気温が15℃を超えたので、春の軽い装いで散歩に出ました。たくさんの人たちとすれ違いながら、春の喜びを分かち合うように、笑顔で「こんにちわ」。森を通って「樹木の植物園」へ。門の周りにはラムソン(クマニラ)の小さな緑の葉が地面にいっぱいです。

背の高い樹木が風を防いでいる植物園の中では、空気がいっそう温かくて、春の香りを感じます。どの樹木の枝も、芽が膨らみ始めたばかり、まだ葉がありません。落ち葉の積もった地面の上に、ひとつふたつと野草の小さな花を見て歩くうちに、眩しい陽射しの中に白いアネモネの花を見つけました。小さな春の発見です。

早咲きの青紫の小さなツツジは、今年もまた、一番乗りで花を咲かせて、ミツバチの訪問を迎えていました。

桜類の区画にある我が家の養蜂箱に近づくと、ミツバチたちが忙しそうに箱から飛び出したり降り立ったりする様子が見えました。もう数日して、たくさんのアネモネや野花が咲いて、蜜や花粉を充分に集められるようになるまで、ミツバチたちはもう少しの辛抱です。

ところで、春を待つ長い冬の間、地元の養蜂家協会はコムーネ(市に相当する自治体)に「ミツバチに優しい自治体」を目指す提案をしました。「ミツバチに優しい自治体」とはデンマーク養蜂家協会が全国のコムーネを対象にした運動で、公共の広場や公園、歩道や路肩あるいは中央分離帯などに様々な野草の植栽を施して、ミツバチが蜜や花粉を集められる花と花の種類を増やすことを目的にしています。
事業の背景には、デンマークで近年問題になっている、植物の種類の減少化があります。これは農業経営の効率化に伴い、農地面積あたりの収益の多い穀類や菜種などの農作物に生産が集中するようになったことが大きな原因です。昔なら畑に野の花が混在したのだそうですが、除草剤の改良によって農産物以外の植物は育たなくなったのだそうです。植物の多様性が失われると、生息する昆虫を含めた動物の多様性も危うくなり、デンマークの自然の生態系が崩れる危険もあります。そこで、植生の多様性の保護のために「ミツバチに優しい自治体」をコムーネに働きかける運動が始まったのです。
私の住むコムーネは様々な花の咲く花壇やリンゴやナシやサクランボの木が植えられた庭のある住宅が多く、街路樹や森もあって、植生は多様なのですが、それでも緑の空間は芝生が多くて、ミツバチが蜜や花粉を集められる花の種類や数が充分ではないのだそうです。ここ数年は悪天候も原因で、地元の養蜂家のハチミツの生産量が減少の傾向にあります。そこで、地元の住民にとっても、養蜂家にとっても、有益になる公共空間での野草の植栽を提案したのです。そしてコムーネの都市計画と環境の担当部署では提案に興味を抱いて、早速、コムーネの事業として実行することになりました。どこにどのような花を植えるのか、とても楽しみです。
