新学期へ向けて
今年の夏休みは、ほとんどの家族が国外への旅行の代わりに、国内の遠くや近くの親戚や家族を訪ねたり、海辺の別荘を借りてのんびりしたり、海へ泳ぎに行ったり、森の中でハイキングと夜空の下での寝泊まりなどでの休暇になりました。7月は特別に島々を結ぶフェリーの運賃が徒歩や自転車での乗客には無料になって、近くにあっても訪れたことのない大小の島々を探索した人々も多かったようです。小さなデンマークの国土にも、たくさんの楽しい夏の思い出を作る場所がたくさんあるのです。
シェラン島最北端で
そして、8月を迎えて、デンマークの夏休みは2週間を残すばかり。子供たちは新学年の1学期を好調にスタートする準備を始めています。
もちろん、大人も休暇後の日常の再開を前に準備中です。保健庁は社会の平常化第4段階を踏まえて、公共交通機関の朝夕の混雑時の利用ではマスクの使用を奨励するという、コロナウィルス感染拡大防止に関わる8月1日以降の新しい指針を公布しました。デンマークでは人との間隔2m(5月以降は1m)を規準に、特別な場所や状況以外を除き、一般の公共空間ではマスクを使わない方策を取っていたのです。けれども、WHOの奨励のほか、これからの秋冬の気温が低く、湿度が高い気候を配慮して、マスク使用へと指針が変更されました。
半年前までは、日本の報道があれば必ずというほど、「どうして日本人はマスクをしているの?」とたずねられたほど、デンマーク人にとって公共空間でのマスクは異様なものだったです。ところが今では世界中でマスクの使用が当然になって、マスクを使わないデンマークは少数派となり、「どうしてデンマークではマスクを使わないの?」と不思議がられるほどです。
手洗い、消毒、社会的距離、咳やくしゃみ時の配慮は、既に社会生活の標準として定着し、そして、マスクの使用も新しい標準になりました。半年前にテレビニュースで「ニュースタンダード」と言っているのを聞いた時には、ウィルス感染防止は深刻な問題なのだから、新商品ブランドのキャッチフレーズのように言葉するのは果たして正しいのだろうかと考えました。ところが、新型ウィルスに対する防御が長く続いて、感染防止の所作はライフスタイルの「新しい標準」になっています。
また、緊急状態以前の日常の繰り返すうちには気がつかなかった諸問題が、現在の社会の平常化の過程にあって浮上しつつあって、「日常」を省みて、次代の標準を構築する機会にあると思います。森さんのお便りにあったドイツの精肉工場についてはデンマークでも報道されました。工場のある地元の人々の、外国人労働者のクラスター感染だけでなく、彼らの労働や住居の状況への同情が印象的でした。「かわいそう」と思っていたら他人事でなく、デンマークの精肉工場でも外国人労働者のクラスター感染が発生し、しかも精肉業者が「安い賃金で外国人労働者を雇用している」という事実に、より驚きました。思わず、この会社の肉はボイコット!
そういえば緊急事態の間に、外国製品の代わりにデンマーク製品を販売するという新しい方針を立てた大手スーパーマーケットがあります。価格が若干高めでも地元の製品を消費者へ届け、地元の業者を支えようという考えです。もちろん、輸送にかかる燃料が節約できるので、燃料費の経費軽減、さらに気候変動抑制へ貢献が可能です。
人件費の高いデンマークの製品を優先して販売することは、企業にとっては大きな挑戦のはずです。けれども、私たち消費者にとっては、地元で採れる生鮮食品は新鮮だし、地元の工場で製造された加工食品や商品は馴染みのものだし、そのうえ自然や環境保護と持続可能なエネルギー利用への配慮から、消費活動に関わる良心の苛責が少しだけでも軽くなるのですから、とてもうれしいです。
北の海岸へサイクリング
今夏3回目の北海岸へのサイクリングでは、別ルートで城下町ヒレロドを通りました。ちょっと遠回りなので、エスルム湖をながめるベンチで休憩。暑いというのに、我が家のデンマーク人は立ち寄ったスーパーマーケットでチョコレートを買ったものだから、ベンチに座っても、すがすがしい風景をゆっくり堪能する間もなく、溶け始めたチョコレートを慌ててほおばったりして。
エスルム湖
休憩後は、シェラン島の最北点のギルライエの港まで、ちょっとあるけれど出発。森を抜けると草原が広がり、緩やかな下り坂を走ると海からの強い向かい風。さわやかな風に港へ近づいたのを感じます。ギルライエの街は海岸沿いに別荘地の広がっていて、レストランやカフェやアイスクリーム屋さんのある港には、天気が好いのでたくさんの人。「まるで軽井沢か原宿みたいだね」と話すほどの人混みを避けて、漁港のベンチで持参の自家製サンドイッチを。
新鮮な魚をお土産に買ったら、北海岸の自転車道を東へ。別荘の生垣を剪定する人、散歩中の夫婦、自転車の家族、いろいろな人々とあいさつしながら走ると、灯台の下に着きました。ユトランド半島からの訪問者だけでなく、ドイツ人の観光客にも出会い、国境が開いて社会がより平常へ戻っているのだと感じます。
灯台
そして、さらに東へ、1ヶ月前に泳いだホルンベックの海辺を通り過ぎて港まで。ここもまた、たくさんの人!「夏休みが終わったら、人が少なくなるから、また来ようね」と話して、前回見つけた内陸を通る新しいルートで家路へ。
家に着いたら、夕飯はギルライエで買った新鮮な魚を焼いて。焼き魚に白いごはんで、いただきます。少しだけ、海の向こうの地球の反対側の日本が懐かしくなりました。