建築家のみなさま/スペシャルインタビュー

大切なのは太陽に素直な設計

まつお・かずや(松尾設計室代表取締役)
1975年生まれ。九州大学工学部建築学科では熱環境工学を先攻。熱環境のみもしくは設計のみを得意とする専門家が多数の中にあって、「熱環境がわかる建築家」として、設計活動のほか専門誌への寄稿や各地での講演等、多忙な日々を送っている。2005年、建築環境・省エネルギー機構(IBEC)によるサステナブル建築賞を最年少で受賞。『東播磨中央教会』で2007年くすのき建築文化賞 つどい賞、『津川歯科診療所』で2009年明石市都市景観賞受賞。日本の風土・生活様式に根ざした省エネ住宅の基準確立を目指して2010年に設立された一般社団法人『パッシブハウスジャパン』理事。

まつもと・たけし(板硝子協会調査役)


設計者としての原点「風水地火熱観音」

――設計をする時、最初にどのようなことを考えられますか。デザイン、機能、生活といろいろな要素がありますが。

大学の建築学科を卒業して実務に入り、上司に「風水地火熱観音(ふうすいちかねつかんのん)」という考え方を教わりました。

風・台風に耐え、雨漏りせず、地震・火事・熱環境に強く、デザインがよく、防音なども考慮されている。それら全部がバランスよくまとまっていること、ひとつでも欠けたら建物としては失格だよーーという意味です。

これがすごく残っています。風水地火熱観音の高いバランスを取ってやることは、僕の中での絶対。すべての基本としてありますね。

設計するときはまず土地を見て、お施主さんの要望を聞き、太陽がどう入ってくるのか、横の家がどうなっているか…と、周りから詰めていきます。ベースは「できるだけ太陽に素直な設計をする」。それに従って庇をつけたり建物の角度を調整します。
その結果を立体に起こすと、だいたいすごく不細工になるんですよ(笑)それを最後に整える、ほんのちょっとだけ形を変えたりして。僕のデザイン手法は、全部そんな感じです。

――機能を先に考え、デザインはその後に考えるのですね。

今までの経験から、デザインも重視しつつ機能を、というのを8~9割は実現できます。でも、どうしてもケンカすることもあって…そのときは究極の選択として僕は機能を取りますね。


窓の設計は室内からの目線で。外観はあとで整える

瀬戸内海を見下ろす斜面に建つ、松尾さん設計の住宅。海を望む南側に軒を張り出した屋根と大きな窓をつけ、リビングダイニングを配置している(写真提供・松尾設計室)。
5.5m×2.4mの大開口を誇るリビングの窓には、高断熱サッシを採用。外部のデッキスペースは6.5m×2mとこちらも広々(写真提供・松尾設計室)。

――具体的に窓の位置や大きさを決めるのはどのように?

各部屋ごとの通風は必ず確保! また、窓は「南面は大きく、他の面は小さく」し、2方向対角線の位置を基本に考えます。無理な場合も多いですが、そんなときは90度ずれた2面それぞれで確保するようにしています。

このように室内から見て理想となる窓配置をやると、外から建物を見たときの1階と2階の窓の位置がたいていバラバラになるので、それが揃うように調整します。

全方向から見える建物って、あまりないんですよ。住宅の場合は前面道路、もしくは2方向からは見えても、それ以外の面は全然見えないことが多い。 だから僕は、外からよく見える面は外観を重視して揃え、他の面は完全に室内からの通風や熱環境、太陽光の入射取得などを重視します。

――それもデザインですね。格好つけるだけではなく、機能を計画するのもデザインですから。

横の家との関係も重要ですね。日本は住宅同士がけっこう寄っているので。
最近、とくに住宅メーカーや建売屋さんは、土地をちゃんと見ずに写真だけで 判断して建築するケースが増えていると聞いたことがあります。そうすると、隣の家のトイレの真正面にリビングの窓がガッチャンコ、みたいなこともあって(笑)。
そういうところは、住宅を設計する上ですごく重要だと思います。

洗面・脱衣所の窓では、服を脱いでいても外が見えて、かつ周囲の家からの目線は切れるように庇をつけたり、光を取り入れるために外に坪庭をつくったり、といった設計をよくやりますね。
「開放感」と「デザインとしての美しさ」を出す工夫をし、その一方でプライバシーを確保しています。

それから、僕は縦滑り出し窓をよく使うんですよ。間に横がまちや縦がまちがない、パッキンが効く、値段が安い、しかも通風量が100%取れますから。加えて最近よくいわれるウインドキャッチャーになるものですから。


建築界の「空間至上主義」を、設備の性能表示が変える

日本の建築家は、光の取り入れ方が上手です。絶妙な角度から入る光のラインがものすごく幻想的に見える、そんな空間をつくる。
でもそれは太陽を「光」としてとらえているだけ。「熱」としてとらえる感覚が、残念ながら、ないんですよ。

建築は「空間よければすべてよし」ではなく、その根底に「エンジニアリング」がある上での空間だと思っています。法律・土地・住まい手の要望・材料と、たくさんの制約がある中で風水地火熱観音がバランスよく成り立つのが「いい建築」のはず。なのに、デザインだけがすべてと考える傾向が強い昨今の状況は、大きな問題だと思っています。

建築雑誌などでも、面積や工法や仕上げ材は載せても、エネルギーや暖房負荷、耐震性能の項目はないですよね。車でいえば燃費とか馬力に関するところが一切ない。
燃費や性能を表示すれば「この建物は写真はきれいだけど、性能はこんなものなんだね」という感覚が出てきます。デザインだけでなく、建築をもっと全般的にとらえやすくなるのではないでしょうか。

――雑誌に書かれないのは開口部も同様です。最近やっとLow-Eガラスや熱線反射ガラスといった言葉が少し出るようになりましたが、空気層の話もあまりなく、サッシが断熱してあるかどうかもわからないですね。

サッシといえば、ビルの窓サッシは、断熱性能をワンランク上げると値段の上がり方が半端じゃないんですよ。効果を知らなければ、誰もビルで高性能サッシを使おうと思わないくらい。
でも性能表示があったら、設計者はお施主さんに「イニシャルコストは上がるけど、何年で回収できますよ」と話ができるんです。何もないから説明できず、設計者も採用できない、売れないから高くなる…悪循環です。

高性能サッシは高い買い物なのに、設計している人はおろか消費者まで、今はほとんどの人が性能や効果がわからない。究極の話をすれば、結果が出る、つまり快適で光熱費が安くなればお客さんは何でもいいんです。ただ、それを説明できる手段がないのが現状なんだ、と思います。

いいものを売っていくためにも、やはり性能の表示義務は必要でしょうね。


温熱環境による死者年間1万4000人。求められる「設備が意匠に物申す」システム

今、日本の建築界で話題になるのは「見た目としてすばらしい空間」で、温熱環境は正直、ほぼ含まれていません。また、現在の設備設計は、意匠設計者が描いた図面に合わせて空調の設計をするのが慣例になっています。
例えば西面に大きなシングルガラスの窓があって、普通のエアコンの馬力では到底効かない設計でも、設備の設計者が意匠設計者に対して「窓を小さくして」とか「遮熱ガラス入れてください」と言えないんですよ。

構造設計には明確な基準があって、仮に有名な建築家が「柱が一本もない建築をやりたい」と言っても、構造事務所が「できません!」と言えば、その設計での建築は不可能です。そういった意味で構造の世界はきちんと分業化され、まっとうなことができている。
設備設計もこうあってしかるべきですが、ここでよく言われるのが「構造は人が死ぬから」。地震がきたときに構造がちゃんとしていなかったら人が死ぬ、でも「温熱で人が死ぬことはないだろう」という考え方です。

でも、僕から言わせたら、とんでもない話だと思っています。
阪神大震災は5000人くらい亡くなりましたが、その中には火事で亡くなった人もけっこういます。東日本大震災では2万人くらい亡くなっていますが、津波で亡くなった人もいる。過去20年の2回の震災で、地震が原因で亡くなった人は合わせて1万人くらいでしょう。

ところが温熱環境ーー主に脱衣室、浴室が寒いことによるヒートショックーーで亡くなる人は年間1万4000人という推計があるんです。単純に考えて、10年で14万人も亡くなっていることになる。だから「構造は命にかかわる、熱環境はかかわらない」というのは絶対におかしいと思っています。

しかも今後の省エネ対策は、クールビズやウォームビズつまり人に我慢を強いるような、もっと言えば「命を削る」方向を強いることになりますから、やはりこれは時代の流れと完全に逆行していると思います。

――海外では、どのような状況でしょうか。

ドイツの設備設計では「建築物理コンサルタント」という人がいて、日本の構造設計と同じことをやっています。

ドイツの建築のエネルギー消費量は、年間15kWh/m2までと決まっています。これに基づいて建築物理コンサルタントは、意匠設計者の設計に対して「たとえ最高の性能を誇るエアコンを使っても、この大きさの窓がこの向きにこれだけあったら無理です」と、対等に言えるんですね。
その枠組の中で「でもデザインはこうしたい」「じゃあここまでお互い妥協しよう」とのやりとりを経て建築ができあがる、そんなシステムができています。

建築物理コンサルタントと話をすると、みんな「建築家は嫌い」「いつもケンカだ」って言いますよ(笑)
でも、それでいいと思うんです。ケンカしながら折り合う妥協点を探っていく、これが正論で、デザイナーが偉くてエンジニア(建築物理コンサルタント)は偉くない、そんなものではないはずです。

デザインは建築にとって大事だけど、それと同等かそれ以上に、温熱環境は大事です。デザインで死ぬことはないですけど、温熱環境で死ぬことはありますから。


快適さは太陽に素直な設計+躯体性能。そこにちょっぴり機械の力を

――省エネや高断熱を考えた上で、印象に残っている窓はありますか。

ドイツで見た、シュタイナー教育の学校の窓ですね。
円形の部屋にカーテンウォールが続いているんですが、ガラスのU値 * が全部0.7程度で、すべての窓に自動制御の外付けブラインドがついていました。そのブラインドがうまく隠されていて「性能重視でガチガチにメカニカルなもの」とは一切感じさせないんですよ。
しかもデザインセンスは日本の建築雑誌に載ってもいいレベル。衝撃でした。すごい窓が使われている、次元が違うな、と思いました。

イタリアの自動車メーカー・フェラーリ社の最高峰『エンツォフェラーリ』をデザインした奥山清行さんが言われています。「いくらデザインが美しくても、空気抵抗が悪ければそれは車として成立しない。そこに機能美というものがある」と。
あたりまえですよね。

建築もそうあるべきだと思うんです。でも今はエンジニアリングも機能美も二の次で「空間よければすべてよし」。
僕は、それはけっこう簡単な世界だと思いますね。一次元でものを考えればいい。デザインだけ考えていればいいなら、それは簡単だ(笑)でも僕はそこに面白みを全然感じないんです。

――風水地火熱観音のバランスに貢献する建築デザイン・設計といったものは、あるのでしょうか。

やっぱり、太陽に素直な設計ですね。冬の日射は取り入れて夏の日射は遮る。これに歯向かうのは最悪ですが、考えないだけでも結果として歯向かっているのに近い結果につながります。
例えば西面に2m×2mくらいの窓があったら、そこから入ってくる熱量は電気ストーブを設置するくらいになるんですよ。夏場なのに(笑)

エアコンや冷房が嫌いという人も多いし、まずは機械に頼らないこと。
人間が一番快適に感じるのは春と秋ですよね。寒さも暑さも何も感じない、これが一番快適じゃないですか。あれを実現しようとすると、機械ではなくローテクの部分、太陽に素直に設計し、かつ躯体性能をちゃんと上げてやることが大切です。
でも冬の一番寒い時期に暖房なしは無理ですから、ちょっとだけ機械を入れる。夏も同じです。

できるだけのことはローテクの部分でやって、最後にちょっと設備に頼る。これが一番大事だと思います。


取材日:2012年6月16日
構成・文:二階幸恵
撮影:千倉志野

  • * 熱貫流率。窓や壁をはさんで両側(室内と室外など)の気温が異なるとき、暖かい側から冷たい側に向かって熱が窓や壁を通過する。両側の温度差が1度の場合に1㎡の窓ガラスを通過する熱量を表したものが熱貫流率で、数値が小さいほど断熱性能が高い。

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