事例紹介/リフォーム ビル

エコリフォームは
働く人と良き製品のために

-東京都 玉の肌石鹸株式会社-

Profile Data
立地 東京都墨田区
建物形態 RC造
利用形態 事務所・従業員休憩室・工場
リフォーム工期 2014・2016・2017年
窓リフォームに使用したガラス 真空ガラス

舞台は東京の真ん中で操業を続ける石鹸メーカー

1ブロックを占める敷地には事務所棟・研究開発棟・工場・倉庫が建つ。周囲には8~10階建の中層マンション群

訪ねた事務所棟は、外壁に太陽光発電パネルが張られていた

都心住宅地の真ん中に建つ老舗メーカーが取り組んだエコリフォームをご紹介しましょう。

隅田川と江戸川にはさまれたデルタ地帯・東京都墨田区は、江戸の昔からものづくりで栄えてきたまち。玉の肌石鹸株式会社も、明治時代からこの地で操業を続けてきました。
約2000坪の敷地は、四方をマンション群に囲まれています。
大小合わせて17ある建物のうち、対象になったのは事務所・ライン従事者用休憩室・乾燥や成型を行う工場の計3棟。

2014年から2017年にかけ、断続的に工事が行われました。


めざしたのは“省エネよりも仕事環境をよくする”エコリフォーム

敷地内の建物配置図。現在までに3つの建物のエコリフォームが完了している

玉の肌石鹸の芹川 均さんと福田康之さん、施工を担当した遠藤硝子代表取締役の遠藤 俊さんにお話をうかがった

休憩室全景。広々とした空間だが、エコリフォーム前はこの天井の高さも寒さを助長していただろう

高い位置に窓が切られた成型工場の内部。周辺に騒音被害を与えないよう、当初から防音を目的とした二重窓が採用されていた

社内への周知から施工立会いまで直接担当し、エコリフォーム計画のマネジメント役を務めた玉の肌石鹸工場管理課課長の福田康之さん。誰よりも現場を知り、施工との架け橋役ともなった

今回のエコリフォームは「関わる人々に向けた快適さの提供」が最大の目的です。

従業員が身を置く室内環境の改善が主で、そこに省エネルギーが付随する。発電量45kw超の太陽光パネルを備える企業ですが、エコリフォームにあたっては省エネに先立ち“暑さ・寒さ・騒音”の問題解決が念頭に置かれました。

最初に改善へと乗り出したのは、工場の製造ラインで仕事をする約50人の従業員が毎日利用する休憩室です。
敷地の中ほどにある建物は南側ぎりぎりに工場棟が建っているため日当たりが悪く、窓があるのは北面だけ。プラスチック系の床材が張られ、パイプ椅子とテーブルが置かれていました。

昼食時間と午後の10分休憩をここで過ごすライン従事者にとって、大きな悩みは寒さだったといいます。
「底冷えして椅子が冷たく、多くの人が座布団やひざ掛けを使っていました」と話すのは、現場責任者の福田康之さん。
福田さんの上司である芹川 均さんも「一日じゅうほぼ立ちっぱなしで仕事する中、休憩時間に座れるのが冷たい椅子では、とてもストレスだったと思います」と振り返りました。

休憩室の翌年に工事が行われた事務所棟は、夏の暑さが問題でした。
日差しを直接受ける窓では、出勤から退社まで一日じゅうロールカーテンが下げられていたそうです。工場棟と隣り合う西面以外の3面には、幅約1.3m高さ約1.5mの大きな片引き窓が連なっており、本来は明るいオフィスのはずなのに、圧迫感がありました。
その一方で冬は足元が冷え「上半身と下半身で温度差を感じるほど」と芹川さん。
女性も多い職場で、業務への支障もあったかもしれません。たくさんの開口部は、採光に有利な一方で、断熱力の低い窓ガラスからは外部の暑さや寒さが多く入り込み、影響を受けやすいのです。

成型工場のエコリフォームでは、温熱環境改善のほかに防音もめざされました。
ここは、石鹸の成型に使われる金型の音が道をはさんで真向かいにあるマンションに響かないよう、もともと二重窓にしています。この内窓をエコガラスに入れ替えることにしたのです。


業務を邪魔せず、スピーディに行われたエコガラスへの入替工事

再利用可能な既存サッシにそのままはめ込むことができる真空ガラスの特性は、今回のエコリフォームによく叶っていた

3箇所ある休憩室の窓はどれも北向きで、日射を受けることはない。真向かいには工場棟

休憩室と渡り廊下の間の窓も真空ガラスに入れ替えられていた。手を触れると、出入口の既存シングルガラスの方が明らかに温度が高く、外気が内側に入り込んでいることがわかる

エコリフォーム後の事務所棟。キャビネット上の窓は南向きで、以前は一日中ロールカーテンが下げられていた

成型工場の二重窓は、内窓を真空ガラスに交換し外窓は既存のまま。2枚のガラスの間に真空層を持つガラスは、熱のほか音の伝わりに対する遮断力も高い

帽子や白衣の着用が義務付けられる工場内。ここは固形石鹸の成型が行われる棟だが、シャンプーなど液体を扱う工場内では、衛生管理はより厳しくなる

選ばれたのは、真空ガラスでした。
エコリフォーム計画に積極的に取り組んだ玉の肌石鹸の副社長(当時。現在は社長に就任)は、建物の断熱やエコに対して造詣が深く、たっての希望だったといいます。

施工を依頼された遠藤硝子株式会社の遠藤 俊さんは、現場を調査した際の印象を「建物は古いですが、サッシは過去に取り替えられていて新しく、十分使えるものでした。ガラス交換による窓のエコリフォームとして、真空ガラスの選択は妥当だったと思います」と振り返りました。

最初に手掛けた休憩室の工事は2014年の5月、平日業務時間内です。お昼と午後の休憩時間を外して午前中と夕方に行われ、1日で終わりました。
その後、椅子も新しくなった休憩室では「寒さに関する声を聞かなくなりましたね」と福田さん。工事以前は会話の端々からよく聞こえたんですが、と笑いました。

サーモカメラの測定では、室内と外とで3度以上の差があったそうです。翌年の事務所棟の工事は、この成果を確認した上で決定されました。

事務所棟では業務時間内の工事を避け、暑くなる前の4月の土曜日を2回使って行いました。
対象になったのは東面と南面にある10枚の窓。配線関連の処理が必要だった北面窓は延期されましたが、2017年にはそれも終わっています。

「背中にジリジリとした日差しを感じていた」窓際の席は、熱に直接さらされる状態から解放され、下げっぱなしだったロールカーテンもパソコン画面が見づらいときだけ使うようになりました。
エアコンの温度設定は従来の28℃から変わっていません。エコガラスの窓が、オフィスを快適かつ明るい空間へと変えたのです。

さらにその一月後に行われた成型工場の工事では、高い位置に並ぶ二重窓の内側だけをエコガラスに交換しました。
事務所同様、操業を止める週末に1日で施工されましたが、こちらは休憩室や事務所とは違った気遣いが必要だったといいます。

「通常は古い窓を全部はずしてから新しいエコガラスに入れ替えていくのですが『1枚ずつ工事してほしい』とのご要望があったのです」と、遠藤さん。

石鹸製造過程での環境管理は衛生面など薬事法で細かく定められているといい、とくに虫や菌といった異物の混入防止が厳しく求められます。
それに基づき、福田さんは「二重窓の外窓は閉めたまま、内窓の入れ替えも1枚ずつでお願いしました」
さらに機械にも養生を施して、施工時のホコリなどが入らないよう万全の体制を整えました。

このような工場での施工過程は、一見煩雑にも思えます。
しかし室内環境保持が厳しく求められる化学系の工場であっても、必要な措置さえ取れば通常操業に支障をきたさず短時間で進められる、窓のエコリフォームのシンプル&スピーディな一面ととらえることもできるでしょう。


快適な職場環境が良き働き手と製品を作る

エコリフォーム事業を指揮した、玉の肌石鹸株式会社執行役員兼生産部部長の芹川 均さん

事務所棟の玄関には、工場で使用される電気を直接まかなっている太陽光パネルの発電状況を示すモニターが

敷地の南側に建つ倉庫では、大正時代のレンガ壁を見ることができる。関東大震災や東京大空襲に耐えて残った歴史の証人は、老舗のアイデンティティを支える通奏低音でもあるのだろう

玉の肌石鹸のエコリフォームは、従業員が感じている寒さあるいは暑さをどうにかしたいと願うトップの思いが、取り組みのきっかけとなりました。
このことを芹川さんは「従業員もお客さんである、という考え方」と説明します。

「自分は良い環境の中で仕事できる会社で働いている、という誇りがなければ、続かないと思うんですね。
加えて、私たちが作っているのは体や食器をきれいにする商品です。『これだけの環境で作っているんだから、安心できるいい商品だ』とまず従業員自身に思ってもらう、自分が作っているもののファンになってもらわなければ困るんです。こういったことは必ず外に伝わりますから」

働く人々のプライドを醸成することが製品の品質保証につながる、そのために職場環境を改善するのだ…エコリフォームが持ちうる新たな側面への示唆に、目を開かれる思いでした。

近年、産業界では人材不足が言われ続けています。採用の強化や賃上げが進められる中、職場環境の向上という形で働く人を尊重し、長く気持ちよく働いてもらいながら、品質第一の製造スタンスにさらに磨きをかけようとする玉の肌石鹸。その姿には、次の百年を見据える創業126周年の老舗の底力が見えるようです。

かつて本所と呼ばれ、東京屈指の工業エリアとして近代日本を支えたこの地の歴史を背負い、華やかさより本物の価値創出を念頭に続けられるものづくり。エコガラスもまた、それを支える力のひとつとなったのです。


取材協力 遠藤硝子株式会社
URL http://www.endo-glass.com/index.html
取材日 2018年7月10日
取材・文 二階幸恵
撮影 中谷正人
イラスト 中川展代

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