Builder’s Voice 工務店・ガラス店の声

「心くずぐる建築」めざして 豊かな木の空間をつくる続ける(前編)

森 望(もり・のぞむ)
1955 年生まれ。(株) 美登利屋工務店 代表取締役。一級建築士。
建築設計事務所を経て、1987 年父・將氏の後継として三代目代表に就任。その後、個人経営から法人への移行、住宅建設への主力事業のシフトなど幾つもの経営改革を断行。設計から施工まで、地域や環境に配慮したトータルな家づくりに取り組む。 その一方で日本の伝統的な建築技術や大工の職人技を次世代に伝えるべく、NPO 法人信州伝統的建造物保存技術研究会理事・広報委員長として講演にセミナーに日々駆け回る。


仕事の仕方も家づくりも・・・時代の変化に合わせ、地域に根ざす


窓際の吹出口から流れ出るパッシブソーラーの空気がリビングを暖める( モデルハウス「信濃の舎」)。

――創業92 年、寺社から民家まで本格的な木造建築の工務店として続いてきた御社ですが、代替わりして大きな変化があったそうですね。

20年ほど前に勤務先の建築設計事務所から戻り、三代目として跡を継ぎました。 その頃から、長野で寺社建築をやる工務店の多くが、地元ゼネコンとの仕事で技術を安売りしては目減りする状態が始まっていて、危機感があったんです。
私が戻ったことで美登利屋は設計も手がけるようになり、技術屋以外の方向もできました。

――ほぼ同時期にパッシブソーラーシステムへの取組みも始められています。

お施主さんの希望でやってみましたが、半日しか日が当たらない家で威力を発揮したので、これは面白いと思いました。
設計の重要さにも関連していますし。

このとき一番驚いたのは「こたつのない家」が可能になったことなんです。それまで、長野県の冬はこたつが常識でした。暖かい空気を床に回すシステムで、LDKスタイルでも過ごせるようになった。

――長野での家づくりで「暖かさは重要」ということでしょうか。

寒い土地ですから。
それともうひとつ、暖かい家をつくると北に窓がつくれるんですよ。20 年前は考えられなかった、北の景色を見るなんてね。
北は、雪がきれいに見えるんです。それまで「寒くていやなもの」でしかなかった雪が気持ちいいと感じることに、とてもびっくりしました。

――ほんの20年で、住まい方もずいぶん変わったんですね。


新築もリフォームもエコガラスが標準。四季を感じる窓をつくる

1、2 階とも北側階段室部分に窓がつくられている。「20 年前まで、北窓といえば洗面所とトイレぐらいでした」(同)。

仲間同士で断熱が話題にのぼることも多かったので、高気密高断熱住宅にも20 年くらい前から取組むようになりました。

――そんな中で、エコガラスをどの程度使われていますか。

うちは新築でもリフォームでも、エコガラスが標準ですよ。窓は熱ロスが一番多いわけだから、最低そのくらいは。結露とかにもお客さまは敏感だし。
エコガラスの技術力はすごい。ヨーロッパのガラスとは違います、ガラス面もきれいだよね。

ただし、家は基本的に「休むところ」だから、そんなに明るくなくていいと思ってるんです。設計時も庇を多くつけ、落ち着いた家を提案しています。

――そういった家での、窓の役割は何でしょう?

ある程度の採光はもちろんですが、ほかにはやはり視界がサーッと抜けること。
エコガラスで北に窓をつくれることで、きれいな雪が見える風景を取り込めることでしょうか。
これは、四季を感じる豊かな暮らし方につながるんじゃないかなあ。


傷つきやすいから愛着がわく「木の家」。メンテナンスしながら長くつきあう


営業本部隣のモデルハウスでは県産材の柱梁や漆喰壁など自然素材を多用。本格的な木の家とエコガラスやソーラーシステムなど現代技術が融合する。
南側の露台より正面に和室、左はリビングの窓。省エネ等級4 のエコガラスをベンガラ色の木サッシが支え、深い軒で保護している。

――長期優良住宅にも早くから取り組まれたとか。

先代もそうですが、昔の大工は少ない予算や小さな部材で「どうやれば長もちして構造的にも持つか」をいつも考えて仕事していました。建てたあとも、お抱え大工がずっとメンテナンスしていく。
長期優良住宅はこの考え方と同じです。それですぐに飛びつきました。

――2010 年春に竣工したモデルハウスは、御社の「木の家づくり」の心と技術の粋を集めています。「長く持つこと」と「木造」が家づくりには大切、とのお考えでしょうか。

木は石やコンクリートと違ってすぐ傷つくし、メンテナンスしなければ必ず悪くなる。弱々しい分、人間の柔らかさみたいなものがあって愛着がわくんですよ。なんとかしてあげようって思うような(笑)

だからうちは「メンテナンスできる」家づくりをしています。
木という弱いものを、常に手入れして長く持たせていく。数十年後の家族の変化に合わせて家全体のリフレッシュもできます。

反対にガラスは割れるまで特にメンテナンスすることがない。だからこそ、その時の技術の中で一番いいものを入れた方がいいと思うんです。


取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人
株式会社加藤硝子店
株式会社美登利屋工務店長野県長野市
社員数 7名
木造住宅の設計・施工、社寺造営

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