Builder’s Voice 工務店・ガラス店の声

高知の家づくりは木・土・紙。断熱はゆるやかに(前編)

山本 効(やまもと・いさお)
1943年生まれ。大学卒業後東京の設計事務所に勤務。その後、高知に帰郷し1986年ISAM設計代表者に。96年より勇工務店取締役部長、2003年代表取締役に就任。一級建築士。
建築事務所が設計した住宅の施工業務のほか、自社による設計施工も手がける。また、地元の伝統的な技法と現代デザインを融合した健康的な家づくりをめざす高知の建築文化運動「土佐派の家」に早くから共鳴し、地元産の杉・桧材や土佐漆喰・土佐和紙といった素材をふんだんに使った木の家づくりに情熱を燃やす。その一方で「経年変化を楽しむお客さまはまだ少数派」と、家づくりにおいて自然素材が忌避されがちな傾向を憂う面も。
熱い郷土愛も持ち合わせる。「都会の人はもっと田舎にくればいい。高知は食べ物もお酒もおいしい、住みやすいところですよ。あなたも高知に来られたらどうですか(笑)」


自然エネルギ−を使い、現代の暮らしに合った木の家を

自社設計で25年ほど前に竣工したRC造6階建集合住宅1階の事務所を訪問。インタビューには企画設計室室長の塩見耕平さんにも同席いただいた
土間のある家。農作業やご近所同士のおしゃべりにうってつけの土間空間には雨除けの深い軒が延び、はめ込まれた強化ガラスが冬場の室内に日だまりをつくる。土間は一間ほどあり、使い勝手もよい(写真提供:勇工務店)

――今年で御社は創業50周年。高知という地に密着して、住宅をはじめ多くの建築をつくっておられます。

創業以来、高知県産材を使った木の家づくりと、新建材の建売住宅の建設を並行してやってきました。
しかし僕の代になってから建売や行政関連の仕事からは手を引き、ほぼ同時に自然エネルギ−を取り入れた住宅づくりを始めました。

――その頃から省エネ・環境住宅といった考え方にシフトされた?

これからは太陽熱など自然のエネルギ−を使う時代だという思いがあったのに加え、1997年に釧路でPLEA国際会議*があって、持続可能な地域社会やデザインといった考え方を発信してくれたこともあります。
それに、自然エネルギ−を取り入れるとき、僕たちがつくるような木の家はやはり似合いますよね。今は仕事の大部分が、太陽熱を利用したパッシブデザインの家です。

――設計事務所の手がけた住宅の施工のほか、自社で設計もなさっています。外観は伝統的な日本家屋をモチーフとする家が多いとお見受けしますが、<パッシブな木の家>のほかに家づくりの基本に何をおかれていますか。

現代の生活に合わせた住まい、という考えでしょうね。例えばキッチンとダイニングとリビングを区切らずにひとつにした、いわゆるリビングダイニングキッチン。とくに若い方は室内を区切りません。あとは畳ではなく板の間にするとか。

――表は和風でも内部は現代的、ということですね。広い縁側や深い軒の土間を持つ家もあります。

都会ではちょっと難しいですが、田舎の家にはたいてい縁側がありますね。また、高知では「ぶっちょう」といいますが、店先や家の前に折りたたみ式の椅子を置く文化がある。
それによって家と外部をつなぐ場所ができ、そこで一緒に座って話をするような、そんな暮らし方を想定しています。

土間のある家の住まい手はお百姓さんで、雨が降ったときにここで農作業をしたいとのご希望がありました。あとは隣近所のおじいさんおばあさんがここに集まってきて話をするとかね。
軒先には強化ガラスを使っているんですよ。雨を防ぐためになるべく軒を出しつつ、冬場の日射も入れたいという考えです。


エコガラス採用は基本。でも木製建具の窓では…?

南面に大きな開口のある家も自社による設計。窓には木製建具が使われている。広い縁側にかかる軒は、ここでも強化ガラスが採用された(写真提供:勇工務店)
事務所の打合せコーナーは小さな実験スペース。木製建具と、アルミサッシにアタッチメントでエコガラスをはめ込んだ窓とが、ベンガラを塗った格子の内側で隣り合っている
新築の家の玄関に、今は目にすることのなくなった古い型ガラスや花を描いたすりガラスを使い、趣あるエントランスに仕上げた(写真提供:勇工務店)

――自然エネルギ−を生かす家をつくるとき、窓についてどのようにお考えでしょう。

僕が設計をするときは、南に可能な限り大きな開口部を取ります。多くのお客さまからまず<明るい家>という要望が出ますからね。それから、高温多湿な地域なので風通しをよくするためにも。
さらに、ダイレクトゲインも考えます。南側をサンルームにし、床にテラコッタ風のタイルを張って蓄熱する家を設計したこともありました。

でも、家の温熱環境にとっては、窓がない方がいいんですよ。

――窓がない家、ですか?

熱損失が一番大きいのはガラス面だから。窓を多くするとどうしても断熱が悪くなりますからね(笑)

そうはいっても、窓を減らせば日々の生活の明るさとか外が見える見えないとか、周囲との関係面も含めて影響が出ます。そこで、断熱面を手当てするためにエコガラスを取り入れるというわけです。
自社設計ではエコガラスの採用を基本としています。

ただ、うちではリビングダイニングなどには木製建具を使います。建具屋さんが枠に溝を掘るときガラスに厚みがあると窓が弱くなるので、そのときは通常のエコガラスの採用は難しい。
薄い真空ガラスを使いたいんですが、もう少し手の届く価格になればね…普通に使うと思います。
基本的にはアルミのサッシを使っていますが、窓まわりはやっぱり木にしたい。アルミサッシに匹敵するような気密性能のある木製建具を、誰か考えてくれないかなあ(笑)

エコガラスの技術はすばらしいけれど、広く普及させるには、メーカーさんにもできる限り安く世に出してもらうことがやはり必要ですね。庶民はお金がないから。30代で家を建てられる方なんて、本当にお金ないんですよ。

――模様が彫り込まれた古いガラスを使ったりもしておられますね。

僕自身、ガラスという素材がすごく好きなんです。ダイヤモンドよりもきれいだと思う。
明治や大正時代の家やお店で使われていた、模様が入ったすりガラスの窓なんか大好きでね。解体時に取りはずしたものをとっておいて、新築の家に使うこともありますよ。


家づくりのカナメは施主とのコミュニケーション

県産材や漆喰など地元の建材を使った木の家を標榜する山本さんと、自然エネルギ−住宅に造詣が深い塩見さん。ふたりのコンビネーションが勇工務店の家づくりの中心

――創業から50年の歴史を経て、よい家づくりには何が大切と思われるでしょう。

最も大事なのはお客さまとのコミュニケーション。これがうまくいったときには、本当にうれしい建築ができますね。お客さまも働いている職人も喜ぶ、そんな家。

そこでのキーパーソンは現場監督と大工さんです。これで全然違ってくる。

現場監督だったら、まずはお客さまの話をよく聞き、相手の気持ちを推しはかって話をする。そして一番適切な答えを出してあげることが大事です。
設計事務所とお客さまの言い分が違うこともありますから、そんなときには両方を取り持つ形で設計側に提案できるといいですね。
設計側に言われるままにやる監督と「こうすると雨漏りするから変えましょう」と自分で施工図を描く監督なら後者の方がいい監督だと思うし、そうでなければならないと思います。

――大工さん、職人さんにもコミュニケーション能力が必要と?

お客さまと話をしない大工さんもいますよ。でも仕事の丁寧さとか一生懸命さは見ていてわかる。雰囲気で伝わるから、そういう職人さんはお客さまに気に入られるんです。
例えばノコギリで木材を切った後の切り口は、当たり前のように鉋やサンドペーパーできれいにしておくとか。そうしない大工さんも実は多いんですよ。
技術ももちろんですが、そういう心遣いができること、人柄がやはり大切ですね。最近つくづくそう思っています。


取材日:2014年5月27日
聞き手:二階幸恵
撮影:中谷正人

*PLEA’97釧路国際会議:地球や環境に配慮した低エネルギ−建築の確立をめざし、太陽光などの自然エネルギ−をパッシブな手法で活用しようとする各国研究者のネットワーク<PLEA>が、1997年に釧路で開催した国際会議。PLEAは Passive and Low Energy Architecture の略。

山本 効さん(後編)魔法瓶のような家はいらない 2014年9月1日掲載予定
有限会社勇工務店
有限会社勇工務店
高知県高知市
従業員数10名 常用大工 5名
事業内容/住宅・店舗・公共施設等新築工事の設計施工/民家再生・住宅リフォーム

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