事例紹介/リフォーム

ようこそ、我が家へ 〜抜ける視線で開放感と一体感を実現〜

開口部にこだわった新築レポート -ガラスと空がつくる大開口の家 埼玉県 S邸-


窓は、単なる家のパーツではありません。光の取り込み、風の通り道、断熱・防音、眺望、インテリアetc……と、 生活を快適に保つさまざまな役目をあわせもっています。そう、開口部にこだわるということは、生活にこだわるということ。 そんな生活にこだわるご家族のお住まいを拝見しました。


今月の家を手がけた建築家:上垣内伸一


取材企画協力:OZONE家づくりサポート
<建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

FIX窓と中庭で内部から広がる空間

RCの塀に囲まれた四角い黒い箱が目を引くS邸の外観。

RCの塀に囲まれた四角い黒い箱が目を引くS邸の外観。

大きなFIX窓からの採光で明るい、吹抜けの玄関ホール。

大きなFIX窓からの採光で明るい、吹抜けの玄関ホール。

自然光が降り注ぐS邸の中庭。右手は和室、左手は1階リビングスペース。

自然光が降り注ぐS邸の中庭。右手は和室、左手は1階リビングスペース。

パーティスペースを兼ねる広々とした1階リビングは、日中は照明いらずの明るさ。

パーティスペースを兼ねる広々とした1階リビングは、日中は照明いらずの明るさ。

階段を上りきると突如視線が通り、開放感あふれる2階エリアが迎えてくれた。

階段を上りきると突如視線が通り、開放感あふれる2階エリアが迎えてくれた。

青空の下に、テラスとダイニングが一体化した大きな空間が広がる。

青空の下に、テラスとダイニングが一体化した大きな空間が広がる。

左官仕上げの壁に細い横スリット窓が走る黒い箱。静かな住宅地に建つSさんのお住まいは周囲の家々と少し趣を異にしています。そして一歩入ればそこは開放的な白い空間、そのコントラストに驚かされます。「空間が一体になって広がっている、そんな家にしたかったのです」そう語るSさんは、越谷や幸手など埼玉県内で多くの住宅設計を手がけるウエガイト建築設計事務所の上垣内伸一さんに設計を依頼し、約2年の月日をかけて家づくりに取組みました。

Sさんとの会話の中で開放感への望みを読み取った上垣内さんは、外観は壁を多く閉じた印象にし、内側に中庭を配置してそのまわりを居室が囲むプランを提案。家の中央に庭という"外"、部屋と部屋の間にも3カ所のテラスを設け、内と外が混在・一体化した、あちこちに空のある居住空間です。「閉じた場所からひらけた場に出たとき、人間は開放感を感じるんですね」と上垣内さん。

そんなS邸を特徴づける最大の要素がガラスの大開口です。個室部分など通常の窓はもちろん玄関扉や階段もガラス張りにし、中庭やテラスに面した壁はその大部分が床から天井までのFIX窓。家のどこにいても視線が通り、空間の広がりが実感できるようになっています。

1階は北に玄関、東にゲストルームを兼ねた和室、西には友人や仕事仲間が頻繁に訪れる1つめのリビングと、S邸のパブリックな部分を担う空間が中央の庭を取り囲みます。自然光がたっぷり射し込む中庭はコンクリート平板を居室の床とほぼ同レベルにかさ上げして敷き、内と外のつながりを確保しました。

そして2階はSさんご一家の生活の中心であり、この家の魅力がもっともよく感じられる空間です。階段を上って踊り場を兼ねた2つめのリビングを抜けると、正面には天井まで届く窓と、右手にはダイニングキッチン、吹抜けをはさんで左手に寝室、中庭を見下ろしながら1階のリビングまでが一望。びっくりするような開放感と見通しのよさです。

食事やテレビ、パソコン操作など家族がいつも集まる大切な場であるダイニングは、南側の屋根のないテラスとひとつづきになった大空間です。吹抜けに面した壁は一面のFIX窓、テラスとの境はガラスの引込み戸になっていて、ここにいれば家族がどう過ごしているか大抵はわかる、と奥様。続けて「夜遅くに片づけものをしていたら、テラスの上の空にお月様が見えたんです。そこまで外を味わえるのはやっぱり今までと違いますよね」と微笑みました。
ウッドデッキのテラスはSさんもお気に入りの場所です。お風呂上がりにソファーでくつろげば、ちょっとしたリゾート気分も味わえるとか。


光と風の恩恵がすみずみまでゆき届く

低い窓から射し込む光が床に反射して間接的な光源となっている1階リビング。

低い窓から射し込む光が床に反射して間接的な光源となっている1階リビング。

白が際立つダイニングはテラスと吹抜けの2方向からの光でまぶしいほど。

白が際立つダイニングはテラスと吹抜けの2方向からの光でまぶしいほど。

家を一周する横スリット窓からは室内が見えにくい。右下は中二階リビングの窓。

家を一周する横スリット窓からは室内が見えにくい。右下は中二階リビングの窓。

S邸の室内は中庭からの光をメインに取り入れ、昼間は照明なしでどこも快適な明るさです。1階リビングでは、敷地をまわる外塀に面した壁の低い位置 に窓が切られ、自然光が白い床に反射して部屋をさらに明るくしています。開口部を下げたのは、塀が切れるところからの外の視線を遮るため。

2階では、吹抜けに面したガラスからの採光にテラスのトップライトが加わります。「室内に光が届く限界寸法を頭に、開口部を考えました」上垣内さんの狙い通り、個室も含めて十分な光が家じゅうにゆき届いているのです。

もう1つ注目したいのが、外壁をぐるりと一周する横スリットの窓。エコガラスを採用したFIX窓で、外側からはミラー作用で室内が少し見 えにくくなっています。いつも青空が見えるというこの窓にはブラインドもなく、夜明けから日没まで自然な光が入り「今は5時くらいから部屋が明るくなるん で、家族みんな早起きです(笑)」とSさん。射し込む光で四季折々の時間の流れを感じさせてくれる、魅力的な開口部となっているのでしょう。

S邸の朝は家中に風を通すことから始まります。すべての開口部を開け放って室内の空気を入れ替え、その後ガレージのシャッターだけを閉め て内側は夕方まで開けっぱなしにするとのこと。風は四方から中庭を経由して家全体を流れていきます。2階もテラスの引込み戸を開放すれば「ほとんど全開で 回遊していく感じ」とSさん。FIX窓が多めでも、中庭やテラスなど他の開口部がその実力を発揮し、通風はほぼ満点のようです。

その一方で、ガラスの多い家の宿命といえる暑さの面で課題も見られます。S邸のガラスは横スリット窓以外はすべてペアガラスですが、それでも真夏は外気の熱が多少なりとも室内に入ってしまうとのこと。今後は直射日光対策をすることで、ある程度の効果が期待できそうです。

中庭にスライド式のタープをつけるか検討中、と話してくれた後、Sさんはこう言い添えました。「せっかくFIX窓で大開口を手に入れたのに、そこにロールブラインドを下げたらおかしな話になっちゃうでしょ?


プロとして”家らしくない家”に挑戦

ガラス越しに見える愛車がこの家のデザインコンセプトとなった。

ガラス越しに見える愛車がこの家のデザインコンセプトとなった。

上下のスリットから光が入る、大型テレビの掛かった中二階のリビング。

上下のスリットから光が入る、大型テレビの掛かった中二階のリビング。

この言葉からもわかるように、デザインに対するSさんのこだわりには並々ならぬものがあります。箱形の黒い外観、庇のない開口部、平板なFIX窓の多用、白を基調とした室内に鏡を多く使うなど"ソリッド&シルバー"なS邸のデザインコンセプトは、玄関先に停められたSさんの愛車から想を得たもの。自らの好みに合致したこのコンセプトを、Sさんは家のすみずみにまで徹底してゆき渡らせているのです。

インテリア類やオーディオ機器の存在感も見逃せません。大型テレビが掛けられた中二階のリビングは、奥様がぜひ置きたいと望んだ白いバルセロナチェアに合わせた空間だそうです。同様に1階リビングは鏡張りのトレーニング機器と大きなスピーカーからイメージしました。好きなものと一緒に暮したいという強い意思がそこには感じられます。

この家を建てるとき、Sさんにはもう1つ大切なイメージがありました。それは"生活感がない家"。不動産業に従事する中で、思い描いていた住まいへの夢が予算や利便性の観点から妥協を迫られ、最後には平凡な家に落ち着いてしまうお客さんを数多く見てきたといいます。そんな経験から、自分の家はほかを多少犠牲にしてもデザインを優先しようと心がけてきました。言い換えれば"家らしくない家"への挑戦ともいえるでしょう。「家づくりの世界に携わる以上、機会があれば目新しいものを周囲に見せていきたいんです」プロとしてのSさんの言葉です。

少しぐらい暑くてもFIX窓はふさがない、「だってデザイン重視というこの家の主旨と違ってしまうから。ちょっとだけ我慢」その笑顔には我が家への誇りと愛情が満ちていました。


今月の家を手がけた建築家:上垣内 伸一 取材企画協力:OZONE家づくりサポート <建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

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