事例紹介/リフォーム

ようこそ、我が家へ 〜自然素材に包まれた「終の住処」の心地よさ〜

開口部にこだわった新築レポート -埼玉県 N邸-

Profile Data
住宅形態 木造地上2階建て(長期優良住宅認定)
住まい手 夫婦+子ども1人
敷地面積 434.83m2
延床面積 142.60m2

ようこそ、我が家へ 〜自然素材に包まれた「終の住処」の心地よさ〜



今月の家を手がけた建築家:栗原 守(光設計)


取材企画協力:OZONE家づくりサポート
<建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

南に畑が広がるN邸。日の出から日没までが居ながらに眺められ、夜は月明かりと市街地の夜景が楽しめるロケーションだ。

広々とした畑を見渡す和風モダンの家がNさんご夫妻の「終の住処」です。定年を目安に約3年の月日をかけ、市街地からの住み替えを計画、実現しました。

奥様が育った家にほど近く、土地勘や知り合いのあるこの地を選んだおふたり。
Nさんは「木に囲まれた山小屋のような空間」、奥様は「狭いところに住んでいたので、広い続き間がある家」と各々イメージを携え、光設計の栗原守さんに設計を依頼しました。
自然素材を多用する設計者との二人三脚の始まりは、2008年のことです。


「これはすごい」リアルな体験が決めた環境住宅づくり

敷地を見た栗原さんは「南の間口の広さを生かそうと考えました。広い部屋よりも、風や光が入り、中庭で緑が楽しめる平屋のような家をつくったら、と話したんです」。
2階に大きな続き間をとの奥様の希望に対し、主要室は南向きにしっかり取り、必要最低限の部屋のみ2階に上げることを提案したといいます。


計画と並行してご夫妻は栗原さんの自邸を訪れました。珪藻土や月桃紙の壁材・くりこま杉の羽目板・羊毛断熱材などを使ったエコハウスです。
「木の香りがあふれて林の中にいるよう。これはすごい(Nさん)」「一歩入った瞬間から、こういう家がいいなあって(奥様)」と、ここでの体験でおふたりは自然素材の家づくりを決心。少し前に新築したご近所に招かれ、室内に充満する接着剤の臭いに驚きと不安を覚えたことも、背中を押しました。


同様にエコガラスの採用も「実感ありき」です。電球入りのガラス箱に手を当てて熱の伝わりを感じるサンプルをショールームで体験し、効果を確かめました。「そのつど実物を見せていただいたことが、非常によかったですね」。


離れ縁側あり。中庭で分節され、ゆったりと広がる木と土と光の家


手前の和室から中庭を経て奥のリビング、寝室と、デッキでつながれた主要室が連なる。ヤマボウシが植えられた中庭には光と風を室内に取り込むとともに緩衝帯の役割も。
十五夜には月見茶会が開かれたという雪見障子付の和室からも、中庭が眺められる。
天井にくりこま杉の板材、柱と梁はヒノキと杉の無垢材、床はナラ無垢材、壁は珪藻土と、自然素材に囲まれたリビング。
Nさんお気に入りの2階書斎は、本棚も机も作りつけの木製家具。
カナダ杉が張られたお風呂は家族全員が絶賛するリラックス空間。モミジの植栽も味わいがある。

計画の主な要素は、煎茶道をたしなむ奥様のための「客間を兼ねた茶室」、山小屋のような「木空間」、ご近所と茶飲み話ができる「縁側」、終日太陽の恩恵が受けられる「開口」そして「通風」の5つとなりました。

周囲に開かれた全体プランは、中庭を中心に東西に分けられています。
西は茶室風の和の空間とし、中庭をはさむことで客間としても使える「離れ」的な性格を持たせました。東に向かって大きな窓のあるリビングと寝室、お風呂が連なります。
「ご近所や通りがかった知人に気軽に声をかけ、縁側でお茶を飲んで話したい」という奥様の願いには、デッキテラスの設置でこたえました。

リビングダイニングは木の香あふれるN邸のメインスペース。中庭に向いた西と、南の2方向にある掃き出し窓、ふたつの天窓で昼間は照明いらずです。
読書好きで2階に書斎を持つNさんも「今はリビングに居る方が多くなりました」。奥様にいたっては「一日ここに座って窓から外を眺めるだけで楽しい」と、N邸屈指のくつろぎ空間となっています。

お風呂にも存在感が。露天風呂のような坪庭付き空間は「こんなお風呂があるだけで暮らしはずいぶん気持ちよくなるから」と栗原さんが提案しました。効果のほどは「家族みんな長湯になって出てこない(笑)」奥様の言葉が証明済みです。

包みこまれるように体になじむ家。その快適さを支えるのは自然素材だけではありません。高い建材技術と伝統的な知恵が生かされたN邸は、長期優良住宅の認定も受けた、未来に住み継がれる環境住宅なのです。


現代技術と伝統的な知恵が、驚きの心地よさを生んだ

中庭の緑を経て畑まで視線が通る玄関のFIX窓もエコガラス。引き戸は右が和室、左がリビングに通じ、開け放てばリビングのエアコンの暖冷気が和室に流れる。
北側の階段室には風抜き用の窓がふたつも。これも含めすべての開口部にエコガラスが採用された。

玄関とリビングをつなぐ欄間も引き戸。開き具合は自由に調節でき、完全に引き込むこともできる。

窓ガラス、風の流れ、内装・断熱材の性質。N邸の室内環境は、複数の要素の相乗効果で心地よく保たれています。

屋根も壁も外断熱材で覆われたN邸で、熱の出入りがもっとも心配なのが開口部。すべての窓に採用されたのは、遮熱タイプのエコガラスでした。
2010年の猛暑も、1階は28℃設定のリビングのエアコン1台で快適だったといいます。「エコガラスの効果で窓から熱が入ってこなかったのが、やはり大きいんじゃないですか」と栗原さん。深い軒も室内への日射を防ぎ、西日はエコガラスや障子で遮られました。

通風の工夫も重要です。

N邸は南に大開口、北は風抜き用に多くの小窓がつけられ、全体が風通しよくつくられています。気候のいい春や秋は家じゅうの窓を開けていますよ、と奥様。

各部屋をつなぐ建具はトイレを除きすべて引き戸で、上部のガラス入り欄間も開け閉て可能。開けることで風の通り道ができ、エアコンの冷気がすみずみまで流れて1階全部が涼しくなったというわけです。
微妙な開閉調整がきく引き戸の、バリアフリー面以外の力が改めて感じられました。

また、外断熱材は内装材と同じく調湿作用のある自然素材のものを採用。余分な湿気を透過して外に排出し、適切な湿度が保たれるしくみになっています。
新築直後にNさんは温湿度計を購入し、毎日の確認が習慣になりました。
取材に訪れた11月末の室内も、湿度は60%弱とほぼ最適の値。N邸の快適な夏の秘密はここにもあるのでしょう。

そしてもうすぐ、初めての本格的な冬がやってきます。床にはほんのりと床暖房が入っていました。

「夏場が涼しかったので、冬は寒いんじゃないかと思っていたんです。でも床暖房だけであったかい。どうして?」奥様のこの疑問に「熱の移動がないからですよ。エコガラスの窓だから、少しだけ入っている床暖房の熱が逃げない。屋根も床も断熱材が覆ってるし」と栗原さん。

室温チェック担当のNさんも「床暖房は低めの設定で十分。夜11時にスイッチを切っても室温は朝まで20℃です。霜がおりた日も18℃でしたよ」これから迎える真冬が楽しみ、とにっこりしました。


身を置けば時間がゆっくり流れ出す・・・快適空間の不思議な力

リビングの奥様お気に入りの席から見た、中庭の風景。竣工に合わせてつくった桜材のテーブルにほおづえをつき、木の葉の舞い落ちるさまを眺める豊かな時間がここに。

「ダイニングテーブルにほおづえをついて庭を眺めているだけで一日飽きないですよ。家から出たくなくて」N邸の心地よさを象徴するような、奥様の言葉です。大好きだった外歩きはここに来てずいぶん減り、かわりに読書や友人を呼んでのお茶会など、家での楽しみが増えたとのこと。
テレビも見なくなりました。「中庭が見える椅子に座るとテレビに背を向けることになるんです。CDやラジオは壁のスピーカーから聞こえるし、食事のときも同じ場所に座っちゃう」

毎朝日の出を眺める習慣、色づく中庭の紅葉への感動、落葉したら待ち遠しいのは雪…と、季節感あふれる新しい暮らしが始まっています。

栗原さんは言います。「室内の快適さで時間がゆっくり流れる。それが、窓の外の景色を眺めているだけで楽しいという感覚になるのでしょうね」
雨や雪の日には部屋の照明を消し、中庭の植栽だけライトアップして家族で眺める。そんな楽しみ方もありますよ、と、またひとつ提案してくれました。

「家にいられる時間が増える、いいタイミングでこの住まいをつくった」と口を揃えるご夫妻。それを引き取り「今この家がないと、時間がいっぱいあるのに居場所がないものね」と栗原さんが笑いました。

旅行や趣味、友人との語らいなどリタイヤ後の暮らしを彩るものは数多くあるでしょう。そんな中、住まい手の豊かな時間を紡ぐ家もまた、かけがえのない存在ではないでしょうか。

我が家をいとおしく見つめて時を重ねるNさんご夫妻。次の楽しみは庭づくり、と話す笑顔のあたたかさが、木の温もりと柔らかく重なりました。


取材・文:二階幸恵
撮影:渡辺洋司

今月の家を手がけた建築家:栗原 守(光設計) 取材企画協力:OZONE家づくりサポート <建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

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