事例紹介/リフォーム

全768戸を完全改修
築50年の団地にエコガラスがやってきた

千葉県・稲毛海岸三丁目団地

Profile Data
立地千葉県千葉市
住宅形態RC造5階建住宅団地
(1968年竣工)
リフォーム工期2016年2月~12月
窓リフォームに
使用した主なガラス
エコガラス

9割の住民が求めた“窓サッシの改修”

築50年超の歴史ある住宅団地で行われた窓リフォームをご紹介しましょう。

稲毛海岸三丁目団地の創立は1968年。RC5階建27棟、全768戸で構成されています。
住棟間隔が広く豊かな緑と芝生が広がる敷地、多世代を巻き込んだコミュニティ活動、保育園や小中学校も近接、徒歩圏内にふたつの駅があるなど、その良好な住環境は長く住民に愛されてきました。

その一方で、典型的な高経年マンションの悩みもあります。
建物の劣化はその代表格でしょう。過去に建て替え計画も持ち上がりましたが、バブル崩壊の時期にかち合うなどで実現しませんでした。現在は再生へと舵を切り、建物を大切に直しながら“80年マンション”をめざしています。

窓リフォームのきっかけは、2009年に行われた全世帯対象のアンケートでした。半数以上の住民が“不具合のある箇所”としてサッシの戸車を挙げたのです。
その後、東日本大震災による液状化被害の修復工事などもあり窓まわり工事はおあずけとなりましたが、2015年に改めて行われた住民アンケートでは、96%が戸車やクレセントの不良、すき間風などの悩みを挙げ「窓サッシを改修してほしい」と希望。
2016年度の大規模修繕工事に合わせ、全住戸の窓リフォームが決まりました。

お邪魔したのは、管理組合理事長を務めるKさんの住まいです。ご夫婦で暮らす4階の3LDK63㎡の住戸に7箇所の開口部があります。

南西向きにベランダとふたつの掃き出し窓が並ぶリビングダイニング、北東面に水まわりという配置で、サービスバルコニーにつながるキッチンドアの上げ下げ窓から「いい風が入ってきます」と奥様。
庇が大きく張り出したベランダごしの日射は、夏の日中はほぼ室内に入ってこないといいます。「ただ、西日はありますね」とは、南西向き住戸の常でしょう。

冬場は「まぶしいのでカーテンを引くほど」たっぷりの日差しがリビングの奥深くまで差し込みます。南正面に隣接棟がなく、芝生と樹木の点在する緑地帯となっているからです。見通しがよく、プライバシーにも心配がありません。
ゆとりある住棟配置は、現代の都市部マンションで得るには難しい特長といえるでしょう。

全768戸を完全改修 築50年の団地にエコガラスがやってきた-詳細写真02

東京湾まで距離にして約2.5kmの稲毛海岸三丁目団地は、埋立地の平坦な地形が自然のバリアフリーで暮らしやすい、とKさん。約8万4000㎡の敷地内に芝生地が3万㎡あるという。柿や梅などの果樹も多く植えられ、収穫した果実は住民全員で分かち合う

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ダイニングテーブルでKさんご夫妻にお話をうかがった。リビングと和室とは格子で三分の一程度仕切られ、広々とした空間になっている

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北東を向いた勝手口扉は上げ下げ窓付き。ここから涼しい風が入ってリビングまで抜けていく。敷地を囲む松林の緑も楽しめる

80年マンションをめざし、性能よしデザインよしの窓に

かつての窓の困りごとを思い出していただくと、奥様からは「まず結露」と答えが返りました。
「ガラスもサッシもひどかったです。障子の敷居がぬれるほどで、毎日拭いていました」ご近所では結露吸水用のテープを使う人もいたといいます。
エアコンによる空気の乾燥を避けるためにガスファンヒーターで暖房していることも、激しい結露の一因だったのでしょう。

窓リフォーム工事で採用されたのはエコガラスでした。
中心となって修繕計画を進めたのは、管理組合理事会と住民の知見者で構成する計画工事企画委員会です。「80年マンションを念頭に、居住性を高めるために最高のものに換えよう、という話になったんですよ」と、理事長のKさん。
民間NPOの改修コンサルタントとも話し合い、アンケートで出た戸車・クレセント・すき間風解決に加え、高い断熱気密性能を持つエコガラスを選んだといいます。

サッシごと交換する工法に加え、デザイン面も一新されました。
従前のシングルガラス窓は中央に横桟があり、下部のガラスはプライバシーを保持するとして曇りガラスでしたが、リフォームでは桟をやめ、透明ガラス1枚としました。

ところがここで問題が。1、2階の住民から「外から室内が見えてしまうのでは? それは困る」と反対の声が上がったのです。

そこで検討委員会は考えました。空き家になっている1階住戸を“モデルルーム”にし、ベランダの掃き出し窓を計画どおりにエコリフォーム。その後に見学会を催して「みんなで芝生に出て、本当に外から見えるのか確認しました」。
結果、ほとんどの人が「思ったより見えないんだね」と納得し、数戸のみ自費でフィルムを張ることになりました。

反対の声が出ても安易に妥協せず、みんなで考え、工夫して解決する。稲三団地の高いコミュニティ力がうかがえるエピソードでしょう。

工期は2016年の2月から12月。約一年の月日をかけて、27棟768戸の窓がエコガラスに取り替えられました。数にして5367箇所にのぼるといいます。

工事期間中には、別の問題も発生しました。
高齢であまり動きたくない、室内が片づいていないなどの理由で部屋への立ち入りを拒む世帯が何組も出たのです。
しかしここでも工事委員会の手腕が光りました。住民で構成する『工事支援隊』を立ち上げて家具の移動や清掃の手伝いを申し出、固い扉を開いたのです。日当などの諸費用を管理組合が負担したことも奏功し、全戸改修にこぎつけました。

さまざまな場面で合意形成の困難に直面する大規模マンションでの改修事業。“稲三方式”は参考になるのではないでしょうか。

全768戸を完全改修 築50年の団地にエコガラスがやってきた-詳細写真05

障子のある北東側居室の窓。結露による敷居の傷みもエコリフォームで解消された

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“高い性能を持つものに”と白羽の矢が立ったエコガラス。管理組合理事会+知見ある住民とで構成された工事企画委員会と改修コンサルが意見を出し合い、採用が決定した

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中桟のない掃き出し窓はすっきりと見通しが良い。ベランダで育てている植物もよく見えます、と奥様がにっこりした

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エアコンの配管用に、ホース貫通口とFIX窓を組み合わせたサッシも

冷暖房費2~5割減! 澄んだガラスで気持ちも明るく

K邸の改修工事は11月、寒さを感じ始める時期に行われました。半日で施工が終わった室内を「あったかいと思いましたね。すきま風もなくなり、近くを通る国道の騒音もまったく聞こえなくなりました」と奥様は振り返ります。
その年の冬からはガスファンヒーターの設定温度を19~20℃に下げても快適だといい「余熱が保たれている感じ」と、こちらはKさんの感想です。

結露は、ガラス面は軽減されたもののサッシ部分とくに北側窓で「今でもつきます」とのこと。
ここには樹脂に比べて熱を通しやすいアルミ素材の性質が表れています。樹脂サッシ中心のドイツや北欧などと比べ、夏暑く冬寒い日本では耐候性にすぐれたアルミサッシが今も主流。これからの住まいの性能リフォームにおいて、解決が求められる課題といえそうです。

一方、夏場はエアコンの効きが良くなり、室内がよく冷えるようになったといいます。防犯のため真夏でも夜は閉め切って就寝するK邸ですが「エアコンは昼間だけつけるようになりました」
日中冷やされた室内の涼しい空気が、窓の断熱力アップで外に逃げなくなり、朝まで保たれているのでしょう。

省エネルギー面も気になります。
管理組合理事長として日頃から多くの住民と接するKさんいわく「居住者の方からは、夏は2割、冬はエアコンやガスストーブを使う世帯で2~3割、灯油の暖房機器を使う世帯では5割くらい省エネになった、との声を聞いています」

もうひとつ印象的だったのは「室内が明るく、気分がよくなりました」という奥様の言葉でした。中桟や下半分の曇りガラスがなくなり「外が見やすくなって、四季の美しさを取り込めます」
澄んだガラス窓で気持ちよく視線が通り風景を楽しめるのは、快適な住環境における開口部を考える際に、温熱環境と並ぶ重要な要素ではないでしょうか。

さらに奥様はご自身が民生委員を務めておられることに触れ「敷地内を歩く方々がよく見えて、様子がわかるのもいいんです。お元気でおられるのだ、と安心できますよね」

夏の暑さや冬の寒さは遮りつつ、豊かな緑の風景や温かいまなざしはやさしく透過する。エコガラスの窓が持つ大切な役割に、改めて出合いました。

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トイレには横すべり出し窓。型ガラスタイプのエコガラスに入れ替えられ「寒くなくなりました」

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1974年の入居以来、転勤などで数年の空き期間をはさみつつも変わらずこの住まいと団地全体を見つめ、愛し続けてきたKさんご夫妻。稲三コミュニティに欠かせないおふたりだ

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リビングの机に向かえば、透明なガラスを通して敷地内の様子がよく見える。民生委員として地域の人々を見守る奥様にとって、別の意味でも大切な窓

取材日2019年6月7日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
エコガラス