事例紹介/リフォーム ビル

9階建ビル、工期は6日間
ファサード窓を全面エコ改修(前編)

-大阪府 住化不動産横堀ビル-

Profile Data
立地 大阪府大阪市
建物形態 SRC造地上9階地下1階塔屋1階(1981年竣工)
利用形態 オフィステナントビル
リフォーム工期 2012年及び2015年
窓リフォームに使用したガラス エコガラス(遮熱真空ガラス)
施工 日本板硝子ウインテック(株)

きっかけは耐震改修。工事に合わせてエコガラスの性能を試す

旧耐震基準で建てられた躯体を外側から補強した横堀ビル。鉄骨の耐震ブレース補強フレームを新設のスラブで既存建物のスラブや梁に留めつけ、一体化させた。深いグリーンを帯びたブレースは、建物ファサードのデザインにもなっている

耐震設計のアイディアからエコ改修全体まで担当した住化不動産(株)不動産事業部の面々にお話をうかがった。右から、リーダーとして采配を振るった武本雅彰さん・巽 健さん・大橋弘和さん。ひとりおいて、施工を担当しインタビューにご同席いただいた日本板硝子ウインテック(株)硝子建材部の矢原寛幸さん

大阪市の中心を南北に貫く大幹線道・御堂筋から数ブロック。ビルがひしめくオフィス街の一角が、今回のエコリフォームの舞台です。

9階建のテナントビルは、部分改修を重ねながら使われてきた築35年の建物で、中央にある大きなブレースが目を引きます。これは2012年の耐震改修でつけられたもの。

エコ改修も、この耐震改修と同時に始まりました。
本格的な工事の前に“効果に関する実験・調査・測定”をすべく、1階フロアに入居する企業が自らガラスを換えたのです。この建物を管理する住化不動産がそれで、不動産事業部のグループマネージャー・武本雅彰さんが全体の指揮を執りました。

エコ改修に踏み切らせたのは、複数のテナントから出ていた「西日が暑い、どうにかしてほしい」という声だったそうです。
横一直線に窓が並ぶ建物のファサードは西向きで、室内の執務スペースもこちら側がメイン。日が回ってくる午後には直射日光が当たり、ブラインドが必須の状態でした。

もともと、このビルの窓には熱線吸収ガラス*が入っていました。しかし「ガラス自体が熱くなるから、あまり効果はね…」と武本さんは苦笑い。その後、内側に遮熱塗料を塗るなどの対策も取ったものの、成果はかんばしくなかったといいます。

耐震改修のブレース補強工事にあたって、接触する部分の窓も同時に取り替えることになりました。
このタイミングを好機ととらえた武本さんは、自社がテナントとして入る1階の窓を断熱改修することで、性能を直接確認しようと思い立ったのです。

選ばれたのはエコガラスでした。


オフィスの居住性や建物強度を考慮し、真空ガラスを選択

以前からエコガラスによる環境改善について武本さんと話してきたという、日本板硝子ビルディングプロダクツの小宮良介さん。今回の改修では西面全窓のガラス交換を提案した

本格工事に先だって窓を改修した1階執務スペース。公開空地に面したFIX窓が真空ガラスに換えられ、外側に耐震ブレースが見える。当初はブレースを室内に入れる案もあったが、デッドスペースができて狭くなり使い勝手も悪くなるため、外付けが採用された

一級建築士である武本さんは、一連の改修を設計面のアイディア段階から推進した立役者だ。外付けブレースによる耐震改修は、施工担当者とともに施工方法も含めて検討・設計し実現にこぎつけている

なぜエコガラスを? の問いに、武本さんいわく「実は以前、別のビルで似たようなエコ改修をしました。北の窓際に机があるスタッフから“寒い”との声があり、窓をエコガラスに換えたら解消されたんです」

このときエコガラスへの交換を提案した日本板硝子ビルディングプロダクツの小宮良介さんも、当時を振り返ります。「改修工事後に東京から出張してきた社員の方が『これいいね、東京でもやればいいのに』と言っていました。以前との違いをはっきり感じたのかもしれませんね」

経験したのは寒さ対策の改修でしたが、外気の温熱状況が室内に及ぼす影響を軽減するエコガラスの性能を自ら体感したことが、今回の改修での採用を決定づける要素のひとつになったといえるでしょう。
その後、数値面での性能も確認した上で真空ガラスが採用されました。

開口部の断熱力アップには、内窓をつけて二重窓にする方法もあります。しかし今回選ばれたのは、もとのサッシを残してガラスだけを入れ替える窓改修。なぜでしょうか。

「やはり居住性ですね」と武本さん。オフィス用テナントビルである以上、少しでも広いスペースを入居者に提供しようと考えるのは自然でしょう。内窓を設置することで、働く人に“狭くなったなあ”と思いながら仕事をさせたくない…そんな思いが感じられます。

既存サッシを活かしたことも、コスト面への考慮だけではありません。「新しいサッシは、従来と比べてどうしても重くなります。古いビルなので、躯体への影響をできるだけ減らしたかった」

空間、使い勝手、強度に対する視点。長い年月を利用され、今後も使い続けられるオフィスビルを部分的に改修するとき、考慮すべきは建材や設備の性能だけでは決してないことを、改めて教えられるようです。


実質工期は6日間。変わった工事方法に予想外の効果も

横堀ビルの基準階平面。公開空地・前面道路に面して西からの強い日射にさらされるファサードのカーテンウォール窓を、すべてエコガラスに換えている。他の三面の開口部は、サイズの小ささや一部は排煙窓であること、さらに会議室は執務スペースより使用頻度が低いなどの現状に予算も勘案し、今回は改修なしとした
建物のファサードを工期別に塗り分けたもの。ゴンドラの動作に合わせて工事がなされた

ゴンドラを使用した工事提案によって工期短縮+コスト圧縮に貢献した施工責任者の矢原さん

エコ改修の本番は2015年です。1階窓の実験的エコ改修から3年の月日を経て、実行に移されました。
このかんに、1階での断熱性能の検討やガラスメーカーによる検証、予算申請など、工事に向けてさまざまな案件がクリアされています。

工事対象となったのはビルの正面、すでに改修済の1階を除く2階から9階まで西面ファサードにあるすべての窓です。
現地調査や寸法確認・ガラスの製作加工など約1ヶ月の準備期間を経て、工事が行われたのは5月後半から6月前半。テナントの通常業務に支障をきたさないよう作業を土日に限定し、実質工期わずか6日間で計176枚、面積にして300㎡超のガラスが交換されました。
暑くも寒くもない中間期を選んだことも、作業の負担軽減につながっています。

施工を担当した日本板硝子ウインテックの矢原寛幸さんが提案した工事方法は、通常とは違ったものでした。足場を組まず、窓清掃などによく使われる作業用ゴンドラを使ったのです。
「足場はコスト高になるし、ゴンドラでやれば工期も短くできます。耐震ブレースがついている箇所はゴンドラが降りないので、ここだけ高所作業車を利用しました」

建物の足下に公開空地があったのも幸いしました。
ファサードからすぐ前面道路の場合、高所作業車を置くために警察署等に申請して道路を使用する許可を受けなければなりません。空地を使えることで煩雑な手続きが不要となり、さらに「平日はエントランスの庇にゴンドラを置かせてもらい、通勤する方の邪魔にならずにすみました」
重なった幸運を振り返り、矢原さんがにっこりしました。

工期は3回に分けられました。一般的に工事は各階ごとに行われますが、今回は各階を貫通する3つの縦割りで工区を設定。上下に動くゴンドラの特性から導き出された方法です。

これが、思わぬ効果をも招きました。
基本的に1フロアを1企業で専有しているため、最初の工事終了後の一週間は、同じ会社の室内に古い窓と新しくエコガラスが入った窓とが混在します。入居者は自ずと両方を比較することになり「エコガラスの遮熱効果を体感できた」との声が聞かれたというのです。

工区を縦割りできたのは、管理を担当する住化不動産も含めてこのビルに入居するテナントがすべて同じグループ会社であり、意思疎通が比較的容易だったことも要素として挙げられます。
事業計画・工事を進める際には、状況を的確に把握し、必ずや見つかるだろう独自の有利な条件を活用することもまた、大切ではないでしょうか。

実質工期わずか6日間。2015年6月、西に面したすべての窓がエコガラスに交換され、いよいよ夏がやってきました。(後編に続く)



*熱線吸収ガラス:ガラス原料に微量の金属を加えて着色したもの。日射熱を吸収してガラスを透過する熱量を抑え、室内の冷房負荷を軽減する


取材協力:日本板硝子ビルディングプロダクツ(株)
取材日:2016年9月27日
取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人
イラスト:中川展代

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