事例紹介/リフォーム

ようこそ、我が家へ 〜良き風景を濾過して取り込む大開口〜

開口部にこだわった新築レポート -東京都 U邸-

Profile Data
住宅形態 木造地上2階建て
住まい手 夫婦+子ども2人
敷地面積 73.81m2
延床面積 43.20m2

ようこそ、我が家へ 〜良き風景を濾過して取り込む大開口〜



今月の家を手がけた建築家:関本 竜太(リオタデザイン)


取材企画協力:OZONE家づくりサポート
<建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

幹線道路沿い、たて込んだ周辺環境、狭い土地・・・に家を建てる

シンプルな箱に四角い窓のU邸外観。敷地が第一種中高層住居専用地域にかかっていたことが、設計のブレイクポイントとなった。

褐色の壁に大きな窓が穿たれ、映った空に白い雲が流れます。敷地面積22坪、建築面積13坪の「都心の狭小住宅」その内側には、小宇宙が広がっていました。

「納得できるライフスタイルの追求には、家を建てるしかないと思いました」デザイン関連の仕事に携わり、8年間の賃貸住宅暮らしを続けてきたUさんご夫妻が動き出したのは2009年3月のことです。

設計を依頼されたのは、以前から書籍や雑誌でその考え方に共感していたという関本竜太さん。 最初に敷地を見たときは「幹線道路沿いで広さにも余裕がない。周囲の環境との関係性をどうするか、少し難しいなと思いました」

しかし、中高層住居専用地域で建物を高くできることから「結果的には大当たりの土地!(関本さん)」に。2010年10月に竣工を迎えます。


住まい手はデザインのプロ。望みは「シンプルな”お店”に住みたい」

白壁とホワイトウッドの集成材を基本に構成された室内。止まり木のような横架材の上部は将来はロフトとして拡張できる。天井には2×8材をそのまま使用。

「家に住むのでなく、お店に住みたかったんですよ」
にこやかに、でも真顔でこう話すのは、迎えてくれたUさん(妻) です。ディスプレイ会社、イタリアンレストラン、家具店の企画部門と衣食住のデザイン現場を渡り歩き、現在育児休業中のプロフェッショナルは「ただの四角い箱、それでいて意味のある構成と無駄のない空間がほしかった」と続けました。

イメージを受けて設計されたのは、仕切りのかわりに微妙な高低差やフレームで変化をつけた大空間。「後でつけたしができる止まり木のようなものだけ挿入した、非常にプリミティブな住まいです(関本さん)」

実はここにひとつのキーワードがあります。それは「北欧のシンプルさ」。
簡素な素材やモノに囲まれて暮らしたい住まい手と、留学と現地設計事務所勤務とで経験したフィンランドの生活のあり方をベースに置く設計者を、この共通項が結びつけていたのです。
モノや素材のありのままを尊重する志向は、ローコスト住宅というU邸の大前提にもフィットし、あちこちに魅力的な姿を表すこととなりました。


大きな窓をフィルターに、光とお気に入りの風景だけを取り込む

リビングに続く階段を上って対面する南の大窓は高さ4m。自然光がほぼ一日中降り注ぐ。漉し取られる風景は青空や鳥、借景の樹々、そして月明かり。
高低差やフレームで変化をつけたリビング空間。西の大窓ごしの光の下、ラグ敷きのプレイコーナーで子どもたちが遊ぶ。
東南向きの明るいバスルームは「夫のお気に入り。日曜日は必ず朝から入っています」

そんなU邸の開口部は「窓に始まり窓で終わった家づくり」と住まい手が振り返る、重要な設計ポイントです。

周囲を住宅や大きな道路に囲まれ、眺めたい風景もとくに見当たらない一方、外部の視線が気になりやすいロケーションで、住まい手が希望したのは「ある程度閉じてのびのびとできる空間(夫)」「昼間はカーテンを引かずにどこもかしこも開けていられる家(妻)」。

そこで関本さんが提案したのが、気に入った風景だけを「漉し取る」窓でした。
「周辺環境を考えてむやみに開かず、メリハリを利かせて開口を抜こうと考えました。ポイントは南の大窓と、住宅を貫く2本の軸線です」

メイン空間である2階リビングダイニングの南と西に、それぞれ大開口を配置。東西と南北、2本の軸線の端部に位置する2つの窓はU邸開口計画のカナメです。
一方は1650mm角、もう一方は2395mm×1195mmのスケールながら雑然とした風景は目に入らず、見えるのはほぼ青空だけです。外部の視線も気になりません。それを補完するように、大小の窓がちりばめられています。

Uさん一番のお気に入りというこの家の明るさは、四面を生かす開口計画のたまもの。「どこを見ても視線が抜ける窓がある。住み始めてその心地よさがよくわかりました」


ローコストなのに高機能な家。秘密は「家の最新テクノロジー」

エコガラス+光触媒を採用したFIXの大窓は、熱の遮断効果に加えてメンテナンスフリー。
1階居室の南面には1195mm角の遮熱エコガラス窓。庇を持たないU邸が受ける直射日光の熱を遮断し、光だけを取り込む。
上部FIX窓からは十分な光、ヒーター脇のすべり出し窓からは新鮮な外気が流れ込むキッチン。窓はどちらも遮熱エコガラス。

U邸の室内環境を支えるのが、窓まわりの最新技術「エコガラス」と「光触媒」です。

採光+空の風景を取り込む役割を担う大窓は、どちらもFIX(西面は上部)のエコガラス。とくに西日についてはUさん(夫)が自ら研究し「遮熱タイプのエコガラス以外はつけたくない」とおっしゃったそうです。
この意向に従い、南と西の主だった窓は遮熱エコガラスに、さらに予算とのバランスも考慮してFIXの形に。

断熱効果は、12月の住まい始めからすぐ現れました。
雪の日も含めて使う暖房機器は毎朝1時間ほどの床暖のみ、オール電化にもかかわらずひと月の電気料金は11000円程度。「寒さもすきま風も結露もなくて、本当にすごい(Uさん)」

一方、FIX窓は掃除が気になりますが、こちらは「新築時は思ったほど費用はかかりません」と関本さんが語る、光触媒の採用で解決しました。
何度か経験した豪雨でその効果がよく見えたそうです。他の窓に砂まじりの雨あとが残るときも、光触媒を使った窓は「きれいでした」。

Uさんいわく「他を削ってもここにはお金かけよう、と選んだのがこのガラス。うちにとっては宝です」
関本さんも「いわゆるローコスト住宅でこれだけハイスペックの窓をつけられたことは、これから家をつくろうとする人に勇気を与えますよね」

通風も問題ありません。掃き出し窓から東西の軸線沿いに流れる風に加え「キッチン脇の窓からもよく風が通ります」とUさん。
「やり方次第で、どこもかしこも開ける必要はないんですね。開閉機構はそれなりのコストになるので、必要がないところはFIXを提案しました(関本さん)」。メリハリある開口計画がここにも見られます。

「高価だから無理」と思いがちなエコガラスや光触媒、掃除が大変そうなFIX窓も、全体のバランスや最新技術を上手に取り入れる意識を持つことで、思った以上に気軽に使えて快適さが何倍にもなる。

ローコスト住宅・U邸の高性能な窓は、そう教えてくれているようでした。


住まい手の責任意識と、それを信じた勇気ある設計

「ショップのような素材感が好きです」Uさんの言葉通り、ライブラリスペースの棚も軽やかに使いこなされている。
Uさん(右)と関本さん(中央)。互いを信頼・尊重しながらの打合せの日々は「めちゃくちゃ楽しい時間(Uさん)」だったそう。終始笑い声の絶えない取材となった。

住まい手と設計者の共同作業である家づくり。加えてU邸で特筆されるのは、プロのデザイナーとして確立した価値観と感性、さらには「住まいをデザインすること」に対する強い責任意識を住まい手が持っていたことでしょう。

ほぼ1年にわたる家づくりでは、互いの意見の擦り合わせに時間がかかったこともしばしば。しかし関本さんは言います。
「Uさんのセンスを信じてゆだねた部分もありました。設計者としてこれはそうそうないことです。でもおふたりはわかって言っておられるから(笑)」

建具や扉をほとんどつけないのも、コストダウンを考えた住まい手からの提案でした。とくに収納の扉を取ることは「見せる収納といっても、実際は残念なことも多くて...(笑)」と設計者の心配の種に。

しかし「なんとかできそうだから取っちゃってください、と言いました」とUさん。その言葉に嘘はなく、ディスプレイのように美しい使いこなしは住み始めて半年を過ぎた今も変わりません。とりすました感じや無理している様子もなく、好きな暮らし方を実現しようとする住まい手の意志だけが自然な光を放っています。

「Uさんの暮らし方自体は、以前から変わっていないと思うんです。ただ、前の家はそのスタイルに合っていなかった。そういう意味で、この家ではストレスフリーにやってらっしゃる気がします(関本さん)」

故郷のような新築の家。そんな不思議な言葉が、ふと思い浮かびました。


取材・文:二階幸恵
撮影:渡辺洋司(わたなべスタジオ)

今月の家を手がけた建築家:関本 竜太 (リオタデザイン) 取材企画協力:OZONE家づくりサポート <建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

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