事例紹介/リフォーム

ようこそ、我が家へ 〜一室空間で調和する和の伝統とシンプルモダン〜

開口部にこだわった新築レポート -埼玉県 浅野邸-

Profile Data
住宅形態 木造地上2階(伝統工法+在来工法)
1階部分既存RC造
住まい手 夫婦
敷地面積 138.87m2
延床面積 62.10m2(住宅部分)



今月の家を手がけた建築家:浅野正敏(浅野設計室)


取材企画協力:OZONE家づくりサポート
<建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

地元の材木で建てた家は、全面吹き抜けのワンルーム

浅野邸の1階はライブハウス。張り出した庇が目を引く住居には、末広がりの美しい曲線を見せるオリジナルデザインの鉄製階段を上っていく。
住まいの全空間が小屋裏の下、一堂に会する。リビングとつながるキッチンの先にはユーティリティコーナー、鏡張りのクローゼットの奥は寝室。
天井を張っていない寝室からは小屋組も高窓も一望できる。ベッドサイドには、浅野邸でほぼ唯一といえる収納が設けられた。
光を存分に入れられるハイサイドライトは大きく、隣地からの視線を考慮したアイレベルの窓は小さく。開口部のコンセプトは明快。
敷地の東側には駅が迫り、ホームに立つ人々の表情までうかがえる。ベランダの手すりは開け閉めできる「無双窓」を採用、通風にも目隠しにも便利だ。

秩父山地の自然と穏やかな気候、丈夫な地盤に支えられた「森林文化都市」飯能市。この地で育まれたスギ・ヒノキは、江戸時代から「西川材」と呼ばれる優良な木材となります。

浅野さんご夫妻の住まいは、西川材を使った家。竣工から1年経った現在も豊かな木の香りに包まれています。結婚を機に家づくりのパートナーに選んだのは、飯能を拠点に西川材を積極的に使った建築を手がける設計者で、住まい手の父親でもある浅野正敏さんでした。

建物の1階は浅野さんが経営するライブハウスで、住居部分は2階です。繊細な手すりのついた鉄製階段を上り、玄関扉を開けた瞬間、あらわしとなった小屋組の美しさに目を奪われました。
柱、梁、床、野地板まで、木材は100%西川材。圧倒的な木の質感にモノトーンのインテリアが調和する、シンプルでひろやかな空間です。

もとは平屋だったライブハウスの上に「載せる」かたちで建てられた浅野邸は「スペースが決まっている以上、夫婦2人で最低限の生活ができるワンルームでよいのでは」という考えのもと、浴室とトイレ以外は天井も張らず、すべてがつながる一室空間として構成されました。

壁が囲むのは北側に集められたユーティリティコーナーと寝室のみ。その寝室も天井はなく、リビングとの境は鏡張りのクローゼットが衝立てがわりになっています。「家じゅうを吹き抜けにすることで空間をより広く、贅沢にできると考えました(浅野正敏さん)」

開口部の計画も明快です。
敷地の周囲は隣家や駅が間近に迫り、今は空き地になっている南側にもいずれビルが建つと予想されます。この環境下で開口部は、プライバシーを保ちつつ将来的にも光が遮られないよう「大きなガラスは上部につけ」、目線の高さでは「風を抜く小さな窓」として計画されました。

最も大きな窓は西面に並ぶ高窓群で、コーナーを経て南面まで続きます。キッチン上部には天窓も切られました。
対照的にアイレベルの開口はどれも小さめ。縦に長い外開きの窓が連なり、室内に一定のリズムを与えています。


木と土の空間に映える、無彩色&スタイリッシュなインテリア

部材の選択から運送手配、配管を除く組立まで、買い手自身がカスタマイズできるキッチン。モノトーン&シンプルモダンなこのスタイルが、浅野邸のインテリアの基準となった。「こういうものは、ハウスメーカーで建てる家ではまず選ばせてもらえないですね」
食品庫などを置くことを想定したキッチンとベランダの間のスペースを、現在はダイニングとして使用。北欧デザインの家具や照明に住まい手のこだわりが見てとれる。
住まい手の左官仕事で仕上げた壁は味わい深い。開口部の奥行きは約16cmあり、サッシぎりぎりまで珪藻土を塗ることで、土壁の質感をより感じることができる。壁を照らす蛍光灯は、梁の側面につけることでリビング側から見えないようにした。
金具を使わない伝統工法で組まれた小屋裏は、中央の梁のみがヒノキ、ほかはスギの西川材。構造耐力は下部の耐力壁に負担させた。地元産のこの良材を使った家づくりを、浅野正敏さんは仲間とともに20年以上続けている。飯能市では西川材を使って建てる住宅に対して補助金を交付している。

住まいのイメージについて、浅野さんは「父がどういう建築をつくるのかよく知っているので、信頼して任せました。自分より妻の方が独自のイメージがあり、それを伝えて形にしてもらった面が多いですね」と話します。

奥様の思いの中心にあったのは、モノトーンのステンレスキッチン。カタログやショールームで集めた情報からお気に入りのメーカーを見つけ出し、自ら購入手配まで行ったといいます。
浅野邸のデザインは、西川材の使用とキッチンを基本に進められたといっていいでしょう。

ほかにも、イームズのシェルチェアやレトロ風味の食器棚などこだわりを感じる家具が目につき、もの自体が少ないことでその存在感がいっそう強められています。
「デザイン色の強いインテリアを置くために、できるだけすっきりした空間にする家づくりでした」と振り返る浅野正敏さんに「今は建物のデザインを壊すものは置きたくない、という気持ちなんですよ」と答える浅野さん。設計者と住まい手の思いが響き合う姿です。

自ら塗り上げた珪藻土の壁には、浅野さんの思い入れがこもります。「自分たちでやりたかったんです、より愛着が出るんじゃないかと思って。やってみたら大変だったけど」
そこへ「このへたくそな塗り方が逆にいいんですよ。いろんな表情が出る、それを狙ったんです。プロの左官屋さんは、適当に塗ってくださいと頼んでもきれいになっちゃうので」と浅野正敏さんが笑いながらフォローしました。

手作りのぬくもりを感じる壁の魅力は、窓にも生かされています。
リビングの風抜き用窓の周囲は「窓枠をつけずに珪藻土を厚く塗りこみました。壁の質感が違ってきて、素材感を肌で感じられます」改めて見直すと、黒いサッシの開口部は室内から少し遠ざかり、外と内との中間に位置しているよう。壁の厚みと存在感が感じられます。

硬質なインテリアときなりの壁が共存する空間を包み込むのが、伝統工法による西川材の木組みです。普通は天井を張って見えなくなる屋根裏ですが「それがデザインになることをよく知っている大工さんと一緒に、見せてしまうことにしました」と浅野正敏さん。

柱も梁もすべて無垢、塗装もせず素地のまま仕上げられた部材は、金物を使わずに貫(ぬき)や楔、込み栓(こみせん)といった伝統的な日本建築の技術で組まれ、迫力ある美しさです。
材となっても生き続ける無垢の木は、息をしているため建てた後にも割れが続きます。「夜な夜な割れて、すごい音が(笑)最近やっと落ち着きました」と浅野さん。
浅野正敏さんが標榜する、合板や集成材を使わない「本物の家づくり」ならではの風景でしょう。


視線の先は広い空。内と外の世界をつなぐ高窓

縦横1200mm超のFIX窓が西面に5枚連なり、角をはさんで南面にも1枚。西側は前面道路に接しており、隣家の視線を気にせず大開口が取れる反面、西日の直撃を受ける。「そのハンディをクリアするために、エコガラスを使うのは必然でした」もちろんエコポイントの対象に。
浴室では、浴槽につかりながら透明ガラスの扉越しに小屋裏から高窓の先にある空まで望める。洗面・脱衣室も閉じずに視線を通すことで、広さの感覚が拡大されている。
トップライトの豊富な外光によって、外と内があいまいな中間領域的雰囲気を持つ玄関。斜めに振った扉にも無垢の西川材が使われた。
縦型ワイヤーの入ったガラスに古風なハンドル、フリクションステーとレトロ風味いっぱいの再利用窓に、ロール式の最新型の網戸を設置。住まい手の希望で、開け閉めできるすべての窓に網戸がつけられている。
浅野邸のファサードを特徴づける、方づえのある大きな庇。「1階のコンクリートと2階の木質を対比させようと、山小屋風のイメージでデザインしました。出が大きい分、方づえも必要になりましたね」昼間は軒天が高窓に映り込み、室内まで続いているように見える。

大きなFIX窓が連なるエコガラスの高窓からは「朝、キッチンに立つとパーッと青空が見える。ガラスがないのではと思うほど雲や空の表情がよくわかって、本当にすごいと思います」ほかでは味わえない贅沢ですよね、と浅野さん。
設計者の浅野正敏さんは「想定していた内と外の一体感が、目線の上にあるFIX窓から感じられて生活の中に生きている。嬉しいですね」

ガラス越しに通る視線は、さまざまな箇所に生かされています。
浴室では、浴槽の中から透明ガラスを通じて小屋裏、高窓までが見え「一番小さいタイプのお風呂ですが、狭さを感じずにすんでいます」。
天井にガラスを張った玄関にもたっぷり自然光が落ち「中と外の中間みたいなところです」と浅野正敏さんが言うとおり、どこか坪庭的な雰囲気。「リビングのソファーに寝転ぶと、ガラス越しに空が見えます」と浅野さんがにっこりしました。

一方、ダイニングキッチンの3つの窓は、リビングの窓と同様のフォルムながら、こちらは木の枠がはめられています。古風なフリクションステーがつき、ガラスも単板ガラスです。
浅野正敏さんいわく「父が建具屋をやっていましてね。この窓は私の姉の家を建替えたときに外して、とっておいたものです。これが入るように設計して、再利用したんですね」
歴史を重ねた美しい窓を「完璧にアンティークでしょ」と言いながら大事そうに見つめる浅野さんの姿に、ここでは過去と今とが窓でつながれている、と思いました。

内と外とをつなぐ窓は、建物の外観にも重要な要素です。
道路に面した浅野邸の高窓は、日が暮れて室内に明かりが入ると中の小屋組が道からよく見えるようになり、大きく張り出したダイナミックな庇と相まって強烈な存在感を発揮します。
住まい手の生活が作り出すライトアップは、1階にあるライブハウスをアピールする看板の役割を果たし「お店としての存在感を出してほしい、との希望にこたえてもらいました」と浅野さん。

ご子息の思いを受けとめつつ「この家では、通る人の目に入る景観・景色についても重きをおきました」という浅野正敏さんは、コンクリート造の店舗に木造住宅が載るこの建物が、自然さを持ちつつお店としての存在感を示し、さらに地元の木である西川材を感じられるデザインをめざしました。
室内のスポットライトに照らされ、闇の中に木組みが浮かび上がるガラス窓は、まさにそのカナメとして機能しているのです。


感じ方も暮らし方も。家がライフスタイルを変えていく

朝、エコガラスの天窓からは寝室に向けて朝日が差し込む。「まぶしくて寝ていられないくらいなので、ここだけは日よけをつけているんです(笑)」 大きな照明はなく、小屋組のあちこちにスポットライトがつけられている。天井や壁で遮られないため、どこか1カ所を点灯すれば家全体に明かりの恩恵が伝わる。上向きのスポットには、高窓越しに外部に木組みを見せるライトアップの役割が。
テレビ台、パソコンデスクともに、造作家具内には一冊の本もなくすっきりしている。「実家ではたくさんの本を持っていましたが、今はタブレットで電子書籍が読めるので問題ないですね」翡翠色のファイヤーキングの食器をおさめた食器棚など住まい手が納得したものだけが、この空間に身を置くことを許される。

体感的な住み心地は? 浅野さんに尋ねると「風通しがいいので、基本的には真夏でも窓を開けています。エアコンをつけたのはほんの数日くらい」
冬は床暖房と、リビングに設置された30畳用のエアコン1台で過ごすとのこと。大きな吹き抜けは寒さが気になりますが「窓から差し込む日光で暖かいし、ストーブも買わずにすんでいますね」。

ハイサイドライトがメインとなる採光も「天窓からも高窓からもまぶしいくらい光が入って、すごく太陽を感じます(笑)当初はロールカーテンをつけようかとも話していましたが、エコガラスのおかげか普通のガラスよりも全然熱が遮られる。1年住んでみて、なくても大丈夫ということになりました」

夜間の光源は、室内各所にあるスポットライトと、リビングの壁を照らす間接照明です。
「シーリングライトは暖かみがなくて嫌いなんです。ワンルームなので、どこかでひとつ点いていれば家全体がうす明るくなるし」聞けばなるほど、住まい手自ら選んださまざまなスポット照明があちこちで個性を主張しています。1個の電球で全部の生活が可能、エコですよ! 浅野さんの言葉に笑いの輪が広がりました。

印象的だったのは、常日頃から奥様が口にされるという「ある程度の便利さを失うことになっても、この家のデザインを壊すものは置かない。夫婦2人で必要なだけのもので生活する」との言葉です。 「そう思わせるだけの空間なんでしょうね」と浅野さん。

確かにものの少なさは、浅野邸の特徴です。テレビ台やパソコンデスクの本棚は西川材の造作家具ですが、普通なら本や装飾があるはずのスペースはどれも空いたまま。キャビネット類も見当たらず、寝室の収納すらおそらく一間はないでしょう。

「妻はシンプルな暮らし方が好きで、あまりものを持たない、収納に入らないものは買わないという考えなんですね。自分は以前はものに依存するタイプでしたが、ちょっと考え方が変わりました。そこは影響を受けたなあと思います(笑)」
ショールームのように整然としたキッチンも「料理は毎日していますよ。だからすごく掃除しますね、油を使ったりしてもすぐに」

ここに住んで、なんでもすぐ片付ける習慣がつきましたと笑いながら話す浅野さん。その姿に、住まい手のライフスタイルを変え、その変化をこんなにも楽しませてしまう「家の力」を、思わずにはいられません。

今も建てて間もないかのようにふくいくたる香りを放つ白木の西川材を「それでも1年でずいぶん飴色になりました」と浅野正敏さん。人と家とが長い時間を共有しながら互いに変化し成長していく…その一場面に、立ち会わせてもらった気がしました。


取材日:2012年5月31日
取材・文:二階 幸恵
撮影:渡辺洋司(わたなべスタジオ)

今月の家を手がけた建築家:浅野正敏(浅野設計室) 取材企画協力:OZONE家づくりサポート <建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

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