事例紹介/リフォーム

軽量鉄骨・築20年・建売、の寒い家 エコリフォームでどう変わった?

窓から快適、リフォームレポート -千葉県 Y邸-

Profile Data
立地 千葉県市原市
住宅形態 軽量鉄骨造(1994年竣工)
リフォーム工期 2013年7月〜2014年4月(建物全体改修)
間取り 3LDK
窓リフォームに使用した主なガラス エコガラス(アタッチメント付)
利用した補助金等 省エネリフォーム減税
木材エコポイント


Yさんの家は軽量鉄骨造。ハウスメーカーの設計・施工による、いわゆる<建売住宅>です。
「改修前はとにかく寒いし、夏は暑い。間取りも素材も、何もかも気に入っていなかったんです」と笑って話すご夫妻に、エコリフォーム成功譚をうかがいました。


寒さに耐えかね決心した断熱改修。でもハウスメーカーの対応は…

ほぼ真南を向いて建つ、築20年の軽量鉄骨分譲住宅・Y邸。整えられた生け垣の緑と植栽の紅葉が美しい。住まい手自ら丹精したこの庭があったことも、転居でも建て直しでもない<リフォーム>を選んだ理由のひとつだった
暖かいコーヒーでもてなしてくれたYさんご夫妻。入居直後から建売住宅の素材感には疑問を持ち続けてきたといい「一生のうちにいっぺんはちゃんとした家に住んでみたいな、と思うようになったんです」と笑う。<ちゃんとした家>という言葉の重み
1階の和室をリノベーションして設けられた、Yさんの治療室。西側の大きな窓は改修にともない透明ガラスから型板のエコガラスに換え、断熱とともに患者さんのプライバシーに配慮した
治療室を訪れる患者さんも使う玄関扉はエコガラス採用の断熱ドアに。両脇の低い棚や靴箱は手すりとしても使える。リハビリ中の人の使い勝手も考えた、なにげないユニバーサルデザイン
設計を担当した野口修一さんと妻のかおるさん。今回のY邸リフォームが実は本格的なエコガラス採用案件だったという。「Low-Eガラスは過剰性能と思っていた時期もありました。でも今は基本性能になりつつあります。設計者としてはこれからも設備に頼り過ぎず、この家に住んでよかったと思ってもらえる家を設計していきたいですね」

立地するニュータウンは、市原市と千葉市が隣接するエリアに1970年代から開発が始まりました。数十年のときを経て、今は落ち着いた郊外住宅地の風景が広がっています。
20年暮らす中でつきまとってきた悩みの筆頭は、冬の寒さ。室内の温度計が0℃を示す朝もあり「このままいくと、年を取ったら脳卒中まっしぐらだなと思っていました(笑)」

北向きの浴室や洗面まわりの冷えはひどく、脱衣所のハロゲンヒーターは必需品で、リビングとの境にある廊下を通るのが「寒くてすごく辛かった」。就寝時は一晩中オイルヒーターをつけるのが定番でした。
シングルガラスの窓は家じゅうで結露します。加湿器を使うYさんの寝室がとくに激しく、カビの発生も見られました。

夏は夏で西日が入る部屋は過ごしづらく、また熱のたまる2階には就寝時以外は足が向かなかったとのこと。家の空間の3分の1は、あまり使われていなかった、ということでしょう。
さらにはビニールクロスの多用に代表される「フェイクな素材感」も、長年にわたって住まい手の気持ちに影を落としてきました。「雨に当たった部分がしわになったりして、この程度の材質なのかとショックでした」

それでも「こんなものだろう」と我慢してきたご夫妻が本気でリフォームに取り組み始めたきっかけは、鍼灸師であるYさんが職場のほかに自宅に治療室を持とうと決めたこと。
改修のメインに据えたのは1階和室の治療院へのリノベーションと、家全体の断熱です。

この家を建てたハウスメーカーに連絡したものの、その対応は「全然ダメ。窓は外壁をはがしたり大変な作業になるからとか言って、やる気がない。力を入れていないんですね」

ハウスメーカーに見切りをつけ、新たな相談相手として探し出したのは、同じ千葉県内で住宅専門の設計事務所を営む野口修一さんです。事務所が独自に行っていた、一般向けの住宅勉強会が結んだ縁でした。

しかし一般的な木造注文建築などと違い、ハウスメーカーの建売住宅は構造面などで公表されていない部分が多々あります。改修設計を依頼された野口さんも当初は引き受けるか悩み「情報がないから、どこまでできるかわからないんです。やっぱり怖いですよね」と振り返ります。

最終的にはYさんが熱意で粘り勝ち、謎だらけ? の中で施主と設計者、さらに工務店も巻き込んだリフォームが始まりました。


木材の内装でフェイクな素材感を一掃。断熱はエコガラスで

訪れる人誰もが長居せずにいられない居心地の良いリビング。棚は設計時から収納するものをひとつひとつ確認しながらつくっていったという。中央で空間を支える柱は実は鉄骨の構造材。4面に木材を張りつけ、味わいある姿に変身させた
落ちついたダークブラウンの家具と珪藻土でまとめられた暖かみのあるキッチン。米スギ材を使った造作家具の塗料は数種類の色見本を現場でつくり、実際に塗ってみて決めた
予備室と階段の間にあった壁を取り払って生まれた2階ホールは、この場所に合わせて手に入れたテーブルが鎮座する奥様イチオシの空間。南向きのエコガラス窓からは庭を見下ろせる
ふたつの窓から入る西日で夏の日中は居られなかったYさんの寝室は、リフォーム後はリビングやホールとともに主がくつろぐ場となった

もとからある耐震性能の維持等も考え、構造自体にはさわらないことを前提に、設計者はまず内装や家具に考えをめぐらせました。住まい手をがっかりさせた<フェイクな素材>ではない、時が経つほどに魅力的にエイジングする<本物の材>として、木をはじめとする自然素材を多く使ったのです。

ビニールクロスの内壁ははがして珪藻土を塗り、ドアから引戸に変えた建具にも木を多用。リビングの天井には存在感のある梁が並びます。これは構造に関係しない装飾的なもので、国産のスギの無垢材を張った床や新たに造作した本棚とともに「本がたくさんある古民家喫茶みたいで落ち着きます」とYさんがにっこりしました。
家具の造作に強く、技術もこだわりもある工務店による施工だったことも幸いしています。

構造面でブラックボックスが多いことで判断が難しかった間取り変更にも挑戦。2階を細かく区分けしていた壁をあちこち抜いて、開放的な空間になりました。
トイレや洗面が集中していた階段ホールは天窓や南向き窓に囲まれた明るいスペースに変わり、テーブルも置かれて、今は住まい手お気に入りの場所です。

改修の大目的のひとつだった断熱面では、セルロースファイバーの断熱材を入れるとともに、ほとんどの窓のガラスがエコガラスに換えられました。アタッチメントタイプのものを採用し、既存のサッシをそのまま使っています。

全工事が終了したのは2014年4月。気温35℃も記録した夏を越えての断熱効果のほどをうかがうと、Yさんは開口一番「冷房効率がすごくよくなりました。エアコンがすぐ効くんです」

就寝時以外は暑くて寄りつけなかった2階は「よく行くようになりました。あのホールの空間が好きになったんですね。今はテーブルだけですが、そのうち椅子も置きます。ここでお茶を飲んでもいいですよね」と、こちらは奥様の言葉です。
西日が入るため暑さがよりきびしかったYさんの寝室も「以前は一晩中エアコンをかけたこともありましたが、この夏は一切なし。就寝前にちょっと冷房して、その後は朝までスイッチを切ります。涼しさを保っている気がします」

そのほか、リビングのエアコンは設定温度が高めになる<エコ運転>のレベルが上がり、全体的にエアコンをかける時間自体も減ったとのこと。
暮らしの中でのさまざまな実感と変化が、Y邸の断熱改修の成功を物語ります。


真冬も自由に動きたい! 寒さに制限されずのびのびと暮らす

リビングと洗面をつなぐ1階ホールは、かつてトイレと廊下が窓を分け合っていたところ。シングルガラスを通って入り込む外気で冷えがきつく、住まい手に避けられていた。今は飾り棚と帽子掛けをつけ、ガスヒーターもゆったり置ける便利な開放スペースに。天井の木梁と大きさ違いの窓の直線的な意匠ですっきりとした印象
木の香ただよう浴室の窓外に坪庭がのぞく。窓ガラスは壁内にすべて引き込めるようになっている
アタッチメント付エコガラスの採用で既存のサッシを活用し、予算を抑えた
寝室と階段ホールを隔てていた壁を抜いて、引き違いの大きなガラス窓を入れた。2階の空間をつなぎ合うことで一層の開放感を狙った設計者のアイディア。階段上部には天窓もあり、Y邸随一の明るいスペース
ウォールナットのキッチンカウンターの先にある、背もたれつき造作ベンチがあるコーナー。二重窓の掃き出しからは庭が眺められ、読書するにもくつろぐにも絶好の<囲まれ感>が心地よい空間だ。エコガラスの窓と床暖房、きっちりなされた断熱で、真冬も快適な居場所となるだろう

お邪魔したのは11月半ばでしたが、今年はすでに外気温が7℃まで下がる日があったという話に、このあたりの冬の寒さがうかがえました。
だけど、とYさん。「そんな日に、暖房なしで室内は19℃くらいあったんですよ」
初めて迎える冬、冷気の遮断でもエコガラスは力を発揮し始めているようです。

Y邸1階の北側には水まわりが集中しています。お風呂に続く廊下や脱衣所が窓からの冷気で冷えやすく、行きたくない場所でした。今はエコガラスへの交換で改善され、浴室は本好きのYさんのために読書灯までつけられた新たな<居場所>になっています。窓の外に新しくつくった坪庭もおふたりのお気に入り。

一方、リビングの掃き出し窓の断熱にはシングルガラス+木製枠の内窓が採用されました。
当初ここには障子を入れる予定でしたが、丹精した庭が眺めやすいようにガラス戸に変更したのです。窓枠は「木調の内装にした空間でアルミの窓枠は見たくない」という住まい手の思いが反映されました。
予算の関係で今回はエコガラスへの交換は見送ったものの、二重になった窓の断熱効果は「すごく感じます。内窓を開けるとほら、ひやっとしますね。閉めると全然感じません」

Yさんが振り返ります。「リフォームする前は、とにかく寒いので、冬は一箇所を暖めてそこにいることが多かったんです。他へ行くならまたその部屋をしっかり暖めなければならないから、結局動けなくなる。なにもかもリビングでやらなければならなかったですね」
この言葉、心当たりのある方も多いのでは?

ヨーロッパなどで見られる全館暖房と違い、こたつやストーブでひと部屋ごとに暖房するのが、もう長い間、私たちの国の一般的な冬の過ごし方でした。ひとたびこたつに入れば、Yさんの言う通り<動けなく>なるのです。
「何もしないで時間が過ぎてしまう…これは大きいです。そうなるのが、いやでいやで(笑)」

こんな状態から解放されることもまた、エコリフォームの魅力でしょう。
改修後のY邸には、リビングはもちろん、キッチン脇のベンチ、2階ホール、寝室、浴室、トイレにいたるまで、ゆったりとくつろいで本を読めるような居場所があちこちに用意されています。
これを楽しむには<家じゅうどこも寒くない、暑くない室内環境>があってこそ。言い換えれば建物の高い断熱性能が前提なのです。

厚着をして縮こまっていた20年間にわたる冬の日々を経て、今は「早くもっと寒くならないかな、って思うんですよ」楽しげに語るご夫妻の笑顔に、家という器が住まう人にもたらす豊かさと、そこに求められる<性能という力>を思った一日でした。


野口修アーキテクツアトリエ


取材日:2014年11月16日
取材・文:二階幸恵
撮影:渡辺洋司(わたなべスタジオ)

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