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Designer’s Voice 建築設計者の声

断熱は東北で設計する“お作法”

手島浩之(てしま・ひろゆき)

1967年生まれ。東北大学工学部建築学科卒業後、1990年より(株)山本理顕設計工場、1995年から(株)横山芳夫建築設計監理事務所勤務。1997年より(有)都市建築設計集団設立、現在に至る。
木造平屋建住宅『森を奔る回廊』で第32回日本建築学会東北建築賞作品賞・JIA東北住宅大賞2012優秀賞。東日本大震災復興拠点施設『みんなの交流館 ならはCANvas』で平成30年度全建賞、第40回東北建築賞特別賞他。専用住宅『大きな地形を背負う環境住宅』で空気調和・衛生工学会第34回振興賞 住宅環境設備賞、2019年東北住宅大賞奨励賞他。『石巻市にっこり地区復興公営住宅』で2020年第1回東北建築大賞 大賞受賞など、住宅非住宅建築ともに多くの受賞歴がある。

仙台市を拠点に、関東~南東北エリアを中心に住宅から福祉施設、商業施設等まで、多様な建築の企画・設計監理を行う。アトリエ系事務所出身らしい洗練されたデザインとともにコストや環境・音響性能に配慮した設計を念頭に、多くの模型制作を通して最良の解を求める設計手法が特長。施主の話をよく聞く設計者としてクライアントからの絶大な信をも得ている。
東日本大震災からの復興まちづくり支援活動を実務の立場から支え続け、震災復興を議論する連続シンポジウム『みやぎボイス』主催メンバーのひとり。災害を経た地域コミュニティの継続に建築家としていかに貢献していくか。真摯な模索と実践を続ける。一級建築士

断熱設計は仙台で不可欠。意匠と性能は“お作法”に合わせて

設計活動を行う際、何を基本に置いていますか。

建築作品にすること、クライアントのニーズ、温熱環境やエコなど社会的に必要とされる要素、この3つのバランスを考えます。

“風景”を形成するようなこともやっています、中庭をつくるとか。狭い敷地ではできないので、ここは地方都市で仕事をするメリットですね。

仙台市を拠点に設計することの特徴的な要素は?

仙台って中途半端なんですよ。
たとえば秋田の有名な設計事務所では環境関連の性能に厳しく取り組んでいますが、そこまでは必要ないし、求められません。東京ではもっとそう。

それでも仙台で建物を建てるとき、クライアントでも設計者でも結露や熱橋、断熱を気にしない人はいません。それが『仙台における建築設計のお作法』ですね。

断熱は東北で設計する“お作法”-01

パネルや模型、数々の受賞トロフィーが並ぶ事務所でお話をうかがった

設計した建物にしばしば独自の名称をつけておられます。

その建物を“見てほしい視点”を、サブタイトルとして表現しています。

モノとしての建築は360°から見えますが、そこに切口を提示することで作品へと昇華する。
今年4月に竣工した福祉施設は、中央の中庭をロの字型に囲む建物です。『風をつなぎ、森をめぐるヴィラ』というタイトルをつけて、ここを訪れる人にどう動いてほしいかという想いを伝えています。

多くの作品でエコガラスを採用されています。性能面でデフォルトとしている基準はありますか。

クライアントへの説明は、平成28年省エネルギー基準から始めます。あとは相手の考え方次第でいくらでも上げられますから。

建築のデザインと性能が両立しない場合もよくありますが…

デザインと性能のバッティングが起こるのは、ディテール面です。

ディテールとは“モノとモノとの出会いの物語をきちんと表現すること”と考えています。
例えば石の上に鉄を載せるとき、どうすれば軽やかに載るか、接合部分をどうやればきれいになるかを重力の法則に従って考える。そのとき、モノに対して素直な表現がなされるといいんですね。

そこに“断熱”が加わるとややこしくなります。
ヒートブリッジを防ぐためにと自然に逆らって無理すると、結局はきれいではなくなってしまう。そんなときは最初からそのディテールをやめます。「こういうデザインは東北ではできない」として。

鉄骨造より木造を選ぶことが多いのも、そのためです。
木は鉄より断熱しやすい上に現代の潮流とも合っていて『仙台のお作法』にかなっています。結露は仙台ではダメですからね(笑)

断熱は東北で 設計する“お作法”-02

仙台市泉区に完成した福祉施設『あいの実COCOON西田中』は、標高約70mの高台で緑に囲まれ、ひろびろと建つ。エコガラスごしに中庭の樹々が眺められるロの字の回廊は“森をめぐるヴィラ”の名にふさわしい

外の空間をガラスで内に取り込み一体化する。コストを考え既製品も活用

窓やガラスに対する考え方をお聞かせください。

外の空間をいかに建築の内側に取り込むか。体は快適に守られながら内と外が一体的になる、それらをつなぐのが窓やガラスだと捉えています。

そこがどれくらいすっきりするかで建築空間は変わっていくので、設計するときは窓(既製品サッシュ)の寸法に合わせて柱割を考えていますよ。

性能は高いにこしたことはないのですが、最初にいい建具を選んでも工事費を決める段階で下げることも多い。なので、一定の性能が保障されている既製品を使いこなすのが大事ですね。

アルミサッシは性能がはっきり出て保証されているから、使いでがありますよ。いいものが安く出ていてコストバランスもいいと思います。
引き違い窓も、性能もコストもこなれて安定しているし使いやすい。住宅の設計では、居室は2面採光・通風を基本にしています。

断熱は東北で設計する“お作法”-03

ショートステイの宿泊室は、それぞれ中庭を向く窓を持って並んでいる。開口部の寸法に合わせた柱割で、高窓とともに自然な佇まい

開口部の日射遮蔽はどのような手法で?

一番は植栽ですね。ルーバーより植物の方が気持ちがいいし、快適性が高いですから。
作庭家とコンビを組んでいるんですよ。近くの山を持っている方と契約して、そこに生えている姿のいい樹木を選んでおきます。

それを庭に使うと。

作庭家と相談しながら、樹種もそのときベストなものを選びます。植木屋さんから買ってくるのとは、やはり出来が違いますよ。仙台という土地のメリットです。

庇については、その建物の用途によりますね。先ほど話した福祉施設では“利用者の体が守られている”ことを優先し、日射遮蔽よりも空間性をつくるために庇をつけました。

環境時代である今日、機能ガラスにどのような性能を求めますか。

建築の性能に関しては「淡々とやっていく」スタンスです。それが求められていると思いますし。

でも、環境問題だけが建築の切口ではないんですよね。

断熱は東北で設計する“お作法”-04

回廊から中庭に向けて張り出す右手のデッキに、大きな庇を設けて室内との連続感をつくっている。利用者に、自分は守られていると感じてほしいという設計者の思いがにじむ

建築作品で世界を変える。その野蛮さを取り戻さなければ

では、建築家として今後どう進んで行かれるのでしょうか。

数十年前の建築家は「作品ひとつで世界を変えられる」という思いで建築を設計していました。今、そのダイナミズムはありません。社会性をもつ存在としての建築が語りづらくなっているのです。
たとえば社会問題に声明を出すのに、日弁連はいいけれど建築家協会は「建築がやれる範囲で分相応のことをやっていればいい」という雰囲気が、現代にはありますね。

しかし社会性を含めてテーマ性を持っていくのが本来の建築家です。
今は失っている“建築で社会を変えようとする野蛮さ”を取り戻すことを本気で考えなければ。そうでないと社会がダメになる、そう思っています。

断熱は東北で設計する“お作法”-05

古い雑居ビルをリノベーションした仕事場にはおびただしい数の建築模型や資料の山。建築設計の最前線だ

東日本大震災を体験した建築家として、復興再生やまちづくりにも尽力し続けておられますね。

復興まちづくりの取組自体は終わりましたが、その後の“コミュニティ継承”がまだ検証できていません。
復興公営住宅の建設を始め、多くの新しい試みが本当にうまく使われているのか。機能していないのならばなぜなのか。ノウハウをまとめていく中で、実務者としての建築家の役割があります。

主催者のひとりとして参画される『みやぎボイス』は、建築のほか法曹界や福祉など多様な分野の方々による議論の場となっています。

そこが面白いところです。復興まちづくりも、研究ベースではなくいろいろな分野で実務をやっている人が中心になるのが、大事なんです。

断熱は東北で設計する“お作法”-06

東日本大震災からの復興の現状について2012年から継続するシンポジウム『みやぎボイス」を主催する連絡協議会メンバーのひとり。建築実務家として参画するが「コミュニティを継承するための合意形成は、建築という世界言語でなくみんなにわかる言葉で最後までやらなければなりません」。地域を見つめる温かい視線が印象的

取材日
2023年6月9日
取材・文
二階さちえ
撮影
小田切 淳
有限会社 都市建築設計集団/UAPP
社名
有限会社 都市建築設計集団/UAPP
URL
https://www.uapp.jp/
住所
宮城県仙台市
社員数
5名
事業内容
建築に関する調査・企画・設計・監理/インテリアの設計・施工/家具のデザイン・製作・販売/ランドスケープデザインに関する調査・企画・設計・監理/グラフィックデザイン・室内外サインの企画・デザイン

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