事例紹介/リフォーム ビル

長野の窓は風景画の額縁
結露は許されない

長野県 株式会社 リゾートメンテナンス

Profile Data
立地長野県小県郡長和町
建物形態軽量鉄骨造
利用形態事務所・フリースペース・展示場
リフォーム工期2012年
窓リフォームに
使用したガラス
エコガラス
改修計画株式会社リゾートメンテナンス
http://re-sort.jp/

標高1250mの別荘地で社屋をエコリフォーム

春まだ浅い3月、八ヶ岳連峰の北端・蓼科山の麓に建つ会社社屋のリノベーションを訪ねました。

事業主体は、蓼科エリア一帯に広がる別荘地での不動産販売・建築やリフォーム・管理など総合的なサービスを行う(株)リゾートメンテナンスです。
標高1250mという高地かつ冬場は-10~-15℃にもなる寒さに加えて積雪も1m程度は普通、という“絵に描いたような寒冷地”の環境を前提とした改修でした。

代表取締役の佐藤芳雄さんは「事務所の機能に加えてお客さまがくつろげる場があり、暖かくて社員が働きやすい仕事場」をイメージしたと話します。
コンビニエンスストアだった建物の躯体と窓枠を残して全面改修し、事務所と薪ストーブ等の用品類展示スペースのほか、管理を請け負っている別荘オーナーとその家族が自由に過ごせるロビースペースを置くことにしました。

リゾートメンテナンスはそのオープンな社風から、旧事務所にあってもなじみのお客さまが気軽に訪れてスタッフと話したりするのが常だったそうで、そんな独自性を生かす場が欠かせなかったといいます。
悩みだった寒さを解消しつつ、森林大国である長野の県産木をはじめとする自然素材・建材を多く使うことも、必須事項に挙げられました。

「寒くない環境にする。コンビニエンスストアの雰囲気をなくす。自然素材を使う…一般的な別荘販売・管理事務所とは違うものをつくりたかったのです」

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白樺湖と姫木湖を結ぶ国道152号線沿いに建つリゾートメンテナンスの社屋。別荘地の入口に位置し、背後にはカラマツ林を背負う

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内部はカラマツ無垢材のフローリングが張られた開放的な空間。間仕切り等を最低限にし、事務室とロビー、用品展示スペースがゆったりとおさめられている

自然素材の多用と断熱性能アップで建物が生まれ変わる

設計を引き受けたのは、お隣の塩尻市で建築設計事務所を営む青木和壽さんです。
まずは建物の性能向上を念頭に、床・壁・天井・屋根に新たに断熱材を入れ、開口部の断熱力を上げて建物全体を暖かくすることに。さらに内外装ともに長野県産の木材を使ってデザイン一新を図りました。

工事は、別荘のリフォームや新築を請け負う建築部門も擁するリゾートメンテナンスの自社施工です。通常の業務をこなしながら約1年ほどの時間をかけ、完了したのは2012年の冬でした。

エントランスから一歩入ると、森の中での別荘暮らしを彷彿とさせる空間が広がります。
床も壁も無垢の内装材がたっぷり使われているほか、中央に置かれた薪ストーブの周辺には石を張り、パーティションの壁もクロスではなく塗りものを使うなど、自然素材を多く取り入れるという当初からの計画が実現されています。
コンビニエンスストアの面影はどこにもありません。

たくさんある窓のリフォームはどうなっているでしょうか。

元コンビニだった性格上、道路側の壁はほぼ全面が開口です。この状況に対し青木さんは「パブリックな建物の窓はもともと中を見せるためのもの。だからブラインドやカーテンはつけず、すっきりさせることにしました」と語ります。

遮蔽物がなければ、外の冷気は直接窓に当たって室内に入り込もうとします。防ぐには高い断熱性能が求められますが、建物の使い手である佐藤さんは「内窓はカッコ悪いからつけたくなかった」。
事務所機能に加え、当初から“お客さまを迎えるオープンスペース”の性格を持たせる計画である以上、視覚的な要素にもこだわって当然でしょう。

その意向を受け、青木さんはガラスのみ変更する方法を選択。加工技術を持つ建具会社の協力を得て既存のビル用樹脂サッシをそのまま生かし、中身をエコガラスに入れ替えました。
「外からの見え方も考えて、色味もより透明なガラスにしたんですよ」と、こちらは設計者のこだわりです。

寒さと結露が解消されたのは、いうまでもありません。

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ロビーの中心、薪ストーブが赤々と燃えるオープンスペースでお話をうかがった。普段は別荘オーナーやその家族が自由にくつろげる場として開放されている。設計を担当した和建築設計事務所の青木さんにもご同席いただいた

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改修前は軽量鉄骨造のコンビニエンスストア。躯体と窓枠を生かし、ほかは全面的にリノベーションを施した(写真提供:和建築設計事務所)

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イタリア産の天然石が張られたストーブまわり。石は耐火目的のほか、蓄熱体としてストーブから発せられる熱を長く保つ役割もある。ストーブ背後の窓には耐熱強化ガラスを採用

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社屋平面図。国道に接する面のほぼすべてがガラスの開口になっている。内部は倉庫や水まわりを除いて一室空間とし、事務室周辺はガラス入りのパーティションを置いてゆるやかに区切る

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内壁や柱には長野県産のアカマツ無垢材を張り、室内での樹脂サッシの存在感を軽減した

顧客にもスタッフにも心地よい“会社のPR空間”を実現

改修後の変化・効果を「以前の事務所に比べて雰囲気が明るくなりましたが、それ以上に大きかったのは『建物が会社のコンセプトを表現してくれるようになった』ことです」と佐藤さんは笑顔で話します。

無垢の木材がたくさん使われていたり、薪ストーブが置いてあったりすることで「“こういう仕事をする人たち、会社なんだな”と、訪れる人に対して事務所がしゃべってくれるんです」
年月を経てフローリングの色が変わったり自然に傷がついたりといった経年変化も見てもらえるので、クレームが出なくなった、とも。「僕はこれを“経年美化”と言っています」

さらに、事務所に頻繁にやってくるお客さま=管理業務を請け負っている別荘オーナーとその家族についてもふれました。「離れるでもなく、くっつきすぎることもない、ちょうどいい感じになりましたね」

ロビー中央の薪ストーブ周辺は、曲線を描く低い壁で断続的に仕切られています。
頻繁に訪れる“常連のお客さま”は、ここでノートパソコンを開いたり新聞を読んだり、子どもたちは薪ストーブで芋やマシュマロを焼いて食べたりと気ままに過ごし、事務所スタッフはそれとなく目を配りつつも声などはかけずにまかせているというのです。
まるでキャンプで焚き火を囲んでいるような「人が集まる場にしたかったんです。他の別荘販売・管理事務所とは全然違うでしょ?(笑)」

ホテルのパブリックスペース以上に快適で親密な場が、ガラス入りのパーティションひとつ隔ててオフィス空間に挿入されている。業態が許すからという一言では片づけられない、佐藤さんのポリシーがそこには凝縮されているようでした。

スタッフからも「新しい事務所になって、広く明るく暖かくなった」との声が聞かれたといいます。
営業部所属の児玉めぐみさんは「全然寒くありません。薪ストーブにも癒されています」とにっこりしました。

暖房は営業開始前にタイマーで石油ストーブを稼働させ、朝9時の出社後にスタッフが薪ストーブに点火します。暖まったところで石油ストーブを消し、その後は終日、薪ストーブのみで大丈夫。
旧事務所は石油ストーブだけを使っていたといい、移転後の灯油使用量は「激減ですよね」と佐藤さん。

薪ストーブの燃料は、別荘地内の樹木管理・整備業務で出る材でまかない、コスト削減とともに資源の循環が実現されています。

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リゾートメンテナンス代表取締役の佐藤芳雄さん。高い趣味性を前提とする別荘地でのライフスタイルを総合的に支える企業のトップは、常に新しいものに挑むエネルギーと遊び心を持ちながらスタッフを引っ張り進む。熱き情熱を秘め、穏やかに語ってくれた

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建物と道路を隔てるウッドデッキは意図的に塗装せず、雪や雨、日射など一年を通した気候の影響による経年変化を周囲に見せている。「きれいな銀色になるんですよ」

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薪ストーブ近くのソファに座ると、奥の事務室からはほとんど姿が見えない。それでいいのだ、と佐藤さん。パンフレットや不動産情報を見に来た人は新規顧客としてもちろん応対するが「ストーブまわりにいるのはよく知っているお客さんなので、スタッフからはちらっと見える程度で勝手にくつろいでもらっています」

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パーティションで囲まれた事務室。ロビー側の様子は大きな室内窓や開け放したドアを通じて気配を感じ取り、不動産情報などを見に来た人には対応する。一方、薪ストーブでくつろいでいる人には声などもあまりかけず、自由に過ごしてもらっているという

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すりガラスに透明ガラスで社名ロゴを抜いた事務室廊下側のパーティション。スタッフと来客がロゴごしに互いを確認し合うゆるやかなコミュニケーションは、佐藤さんがイメージする“ちょうどいい距離感”そのもの

窓は風景の額縁だから。遮蔽も結露もない高い断熱力が必須

社屋には正面に13箇所、両脇も含めれば19のエコガラスの開口があります。FIXガラスの上部に排煙窓を組み合わせた幅1.8m高さ2.1mの窓が主で、全面ガラスの両開き扉も3つ。ファサードはほぼガラスの開口で構成されているのです。

青木さんは「僕が設計するときは、開口部の量を他の設計者の3倍くらいにするんですよ。閉じるのは後からいくらでもできますから。大きい開口があれば日中は照明がいらず、中にいる人も心理的に明るくなります」と話します。「断熱性能が高い大開口で日射取得すれば、冬場の暖房もいらなくなります」とも。
設計者のこの志向・手法もまた、コンビニエンスストアという窓面積の広いビルディングタイプを最大限に生かした空間を生み出す要素となったのでしょう。

一方、佐藤さんは「別荘地の窓は、別の側面が非常に重要です。それは、窓ガラス=景色であるということ。窓は風景という絵の額縁なんです。だから何もつけたくない、ブラインドやカーテンを使えば絵を隠してしまうことになりますから」

「しかも寒冷地の別荘は室内をガンガン暖めなければならないので、ガラスの性能が低いと結露で大変なことになる。寒さが原因で絵が消されてしまいます。
美しい風景を見せたい。そのためには高性能の窓ガラスが必要なんです」

この言葉を受け、青木さんも日本アルプスや八ヶ岳といった名峰群から木曽川や天竜川、信濃川などの名川まで、日本屈指の風景・景勝地を擁する長野県は「都市部とは違った良い環境がある土地。別荘地ならずとも窓の外の景色をどこでも楽しめるのが、都市型の土地に建つ住宅や建物と違うところですね」と言い添えます。

地域資源は産業や観光だけではなく、土地に住まう人それぞれの窓外にもある…目を開かれる思いでした。

取材の終わりに佐藤さんが案内してくれたのは、社屋の脇にある三角屋根のかわいらしい小屋。
「別荘地から出る木材で建物をつくろうと研究開発中です。小さくても性能がいい、ミニマムサイズの別荘のようなものを。長野県産の木材をカスケード利用*して、いずれは木サッシもつくれたら素敵ですよね」

地元の材といえば、社屋の床全面に張られているのも信州を代表する樹木・カラマツの無垢材を使ったフローリングです。
長野在住の設計者として日々県産材の活用にも奔走する青木さんは「カラマツは今は大径木になっていて、建材として使ってもねじれがなく、柾目どりできるまでになっているんですよ」ヒノキやアカマツとともに使っていきたいと語ります。

ガラスと木とで囲まれた事務所は、地域を愛し、その魅力や強みを生かすべく日々奮闘する青木さんと佐藤さんの夢が詰まった、森の中の秘密基地のようでした。

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室内を間仕切るパーティションはどれも低く抑えられるかガラスが張られ、ファサードに並ぶ窓からの採光が奥まで届いている

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ロビーから事務室前を抜け、六角形の展示スペースに続く廊下に、長野の美しい自然を切り取る額縁=窓が並ぶ。のぞめるのは残雪と春を待つカラマツ林

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敷地駐車場に建つ100%県産材の小屋は『小規模・多機能・高品質別荘の開発と新たな別荘需要の開拓による地域資源の活用』をめざす事業の一環として国から認定され、研究が進められている

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応接スペースの扉。シュリザクラ・カバ・カエデ・ハリエンジュなど材料として使われた樹木の名前がローマ字のシールで示され、森林県・長野の地域資源を広めようとする意識がうかがえる。床や窓まわり、展示棚もカラマツやアカマツのシールでいっぱいだった

取材協力和建築設計事務所
URLhttp://www.kazu-design.co.jp/
取材日2019年3月10日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
イラスト中川展代
エコガラス