明るい季節のはじまり
3月の春分の日を過ぎて、今はもう、ずいぶん明るい時間が長くなりました。3月末には夏時間に替わって時計の針を一時間戻したので、夕方の明るい時間がとても長く感じられます。ちょうど我家の遅い夕食の頃、太陽が西の空に傾いて、風景はオレンジ色に染まります。明るい季節が始まりました。
上山さんと森さんの御便りからは、イタリアやドイツの春の暖かい空気を思いました。デンマークでは暖冬であったのにもかかわらず、気温がなかなか上昇しませんでしたが、復活祭の連休中に、デンマークの春を告げるアネモネの白い花が咲き始めました。まだ森のブナやナラの枝の新芽は堅く閉じたままなので、空からの陽射しは木立を通り抜け、地面に広がるアネモネの花模様を照らし出しています。春の初めだけに見られる特別な美しい景色です。
庭にも花がいっぱい

アネモネの白い花模様

雲ひとつない青空と小鳥のさえずりに誘われて、自転車で海岸に建つ「ルイジアナ美術館」まで。太陽の光は温かく、風のない穏やかな日でしたが、頬に触れる空気は冷たくて、美術館のカフェでは屋内のテーブルに。けれども、陽の辺りの良い屋外のテーブルは満席です。彫刻の展示されている庭園に出ると、大木の根元には芝生の上に野草が花を咲かせているのが、遠くからでも見えました。その春の風景の一画に、ベンチに座ってお弁当を食べている家族があります。緑の芝生と色とりどりの花、そして素晴らしい彫刻に囲まれて、青い海と空をながめながら食べるお弁当は、きっと美味しいことでしょう。実は私たちも持参のサンドイッチを。
対岸に見えるスウェーデン

ルイジアナ美術館大木の根元に咲いた花

食材のはなしが上山さんの御便りにありました。デンマークでもスーパー・マーケットで販売している野菜の種類が増えています。季節によっては、ミズナやえのき茸、ごぼう、わさびなど、デンマークで栽培された日本の野菜も出回ります。ここ数年は、デンマークの野草を食材にした料理が評判になっていて、消費者の要求に応えるように、スーパー・マーケットでは栽培したものを売り始めました。
秋にはキノコ、春には行者大蒜に似たラムソンを楽しみにしている人も少なくありません。我家の近くでは、1700年代の城の跡の周辺に、ラムソンが植生しています。とてもたくさんあるので、近隣の人々が季節の味覚として採っていっても、次の春には変わらず同じように、地面が見えなくなるほどのたくさんの緑の葉が生えそろう、素晴らしい自然のたくましさに感動していました。ところが昨年は「根こそぎ」採取した人々がいて、初夏のラムソンの白い花が咲く頃には、茂った葉で覆われた地面のところどころに、大きな穴が開いたように、土が剥き出しになっていました。来春は芽が出ないかもしれないという心配が、残念なことに、本当になってしまいました。緑の葉が生えずに地面が見えているところが幾つもあります。毎年春には、葉が出て大きく育ち、小さな星形の白い花が咲くのを楽しみにしているので、自分の家の花壇を荒らされたように悲しくなりました。コペンハーゲンのレストランが森のキノコや土手のラムソン、湖水のエビなどを、食材として採集しているのだという噂もあります。残念なことに、人々の欲を満たすために、自然は常に被害を受けているのです。季節がまわって、また楽しい春を迎えるためには、わたしたちは自然をそして環境を配慮して、暮らさなければなりません。
今日の現代的なライフスタイルは、過去の社会の延長線上にあり、そして、未来の人々の生活は、今私たちの暮らしぶりに繋がっているのです。買物をするときに、ときどき「この商品はどこから来て、どこへ行くのだろう」と考えることがあります。
我家の4つのハチの家族は、みんな揃って越冬し、そろそろ養蜂のシーズンも始まります。それぞれ、どんなふうに巣作りをするのか、蜜を集めるのか、楽しみです。