窓のある風景
太陽の光が淡いピンクの桜の花や白い木蓮や薄緑の若葉の上に輝いています。眩しくて美しい風景を、暗くて長い冬の間に、すっかり忘れてしまっていました。ブナの若葉が開いて風景に色が染まったら、デンマークの爽やかな季節の心地よさを思い出したのです。
森はブナの葉の影が落ちて、そろそろ白いアネモネの花とさようなら。夏へ向かって力を増す陽光をかざす緑の天井ができあがり、若草の香りの漂う快い空間に多くの人々が散歩に来ています。
明るく温かい空間創りのために、近現代の北欧建築では、窓が大きな役割を果たしています。窓用のガラスの製造が難しかった時代には、木製のたくさんの格子に小さなガラスをはめ込んだガラス窓が使われていました。そして冬の屋内外の寒暖差による窓の表面の結露を防止するために、外と内と(約15-20cm間隔)のガラス窓を二重に仕付けた家屋もありました。
1900年頃にガラスの製造技術が進むと、木製の窓枠の格子は大きくなり、二重のガラス窓が普及します。このころの木製の窓枠は樹木の幹の芯に近い堅い木材を使用していて、100年後の現在でも劣化せず、当時の窓枠を現在でも使用している家屋も少なくありません。しかも、二重のガラス窓は充分な断熱効果があるそうです。そこで、外側の窓を昔のままに、内側の窓には断熱複層ガラス使用することで、外観を変えずに断熱効果を高める方法も。
18世紀の建物(格子の枠の外窓と複層ガラスの内窓)
1920-30年代に機能主義に基づいた建築がデンマークへももたらされると、装飾のないシンプルな形態の建物に細い枠に大きなガラスの窓が施されるようになりました。その頃、ドイツで開発された断熱サッシを細い鉄製の枠にはめた窓は、簡素で軽快な印象の建築に調和したのです。やがて機能的なモダンデザインによる建築で一般家屋が設計されるようになると、二重のガラス窓に替えて、断熱サッシが普及します。
機能主義に基づいた1920年代の建築(格子のない窓枠は木製)
ところが、国土が海に囲まれたデンマークでは湿度が高く、冬季の窓の結露は免れえず、鉄の窓枠が錆びて劣化することが問題になりました。そこで1940-1950年代には、窓枠が鉄から木製へ戻ります。同時に、デンマークの気候に適した、結露を抑制できる独自の複層ガラスの開発が進みます。
ところで、2枚の断熱ガラスの間にアルミニウム製の枠を挟んだデンマークの複層ガラスは、1865年に米国で考案(特許取得)された断熱サッシに近いのだそうです。
夕食後にも窓の外が明るいのに、白夜の季節の始まりを思いました。デンマークが最も美しい季節です。リンゴの花が咲きました。
リンゴが咲きました
