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工務店・ガラス店のみなさま / スペシャルインタビュー

窓は住む人の暮らしに合わせて

野口修一(のぐち・しゅういち)

1968年生まれ。千葉大学工学部卒・同大学院修了。ゼネコン、建築会社勤務を経て1998年野口修一建築設計室を設立。2003年野口修アーキテクツアトリエに改称、現在に至る。2015年度第22回千葉県建築文化賞優秀賞、2020年度千葉の木づかいコンペティション2020優勝賞受賞

自称“大工のような設計者”。無垢の木材をはじめ自然素材を多用した住宅に特化した設計活動を展開する。軒や庇、引戸など伝統的な和風建築の要素を取り入れての日射コントロールや通風を行う独自の環境住宅を標榜しつつ、低炭素住宅など現代の省エネ建築にも積極的に取り組む。
飾り気のない謙虚な佇まいと住まい手の思いに寄り添う誠実さが施主の信頼を集める。深い思索と探求を常とするが、本人いわく「建築的思考より哲学にすがっているだけ」。質実にして剛健な建築人である。一級建築士、ちばの木コーディネーター、住宅断熱施工指導員、ラジオ体操指導員

建て主の暮らしと思いから設計が始まる

無垢の木材やしっくいなど、自然素材を使った住宅の設計がご専門ですね。

はい。建て主さんは「木の家を建てたい」とお考えの方が多く、ファミリー層からひとり暮らし、シングルマザーの方までさまざまです。

窓は住む人の暮らしに合わせて-詳細写真01

国道沿い、ビルの地下1階に位置するアトリエ。エントランスに設置された板張りの袖壁が、周囲のまちなみから独立した空気をつくる

アトリエの基本コンセプト“カタチよりも暮らしをつくる”にはどんな思いが?

造形が苦手だから、違うポイントを言っています(笑)
カタチのよさ=カッコいい家を、と考えているとうまくいきません。こちらの思惑と関係なく、建て主さんは「ここに物干しがほしい」とか、いろんなご希望をおっしゃられます。応えているうちにそっちの方が面白くなりました。

例えば、もし「家じゅう全部ピンク色にしたい!」と言われれば、ピンクについてものすごく調べるんですよ。「よし、これが一番いいピンクだ!」と言えるまで。
そうすることで、次からはピンクの家も設計できるようになります。

窓は住む人の暮らしに合わせて-詳細写真02

高窓から外光が落ちるコンパクトな事務所空間。取材にはスタッフの野口かおるさんにもご同席いただいた

住まい手の暮らしの実感から出る依頼で設計が広がる…

家具類なども、建て主さんの暮らしに合わせてできる限り既製品を使わず手づくりします。引戸の手掛け、シンクの幅や奥行き、引き出しの深さや奥行きなども。さまざまなご希望が出てくるので、あてはまる既製品がないんですね。

また、つくるときには常に原寸で考えるようにしています。

縮小した図面や模型ではなくリアルな生活の視点が基本、ということですね。

窓は低めに開けやすく。日射遮蔽は軒・庇メインで

“暮らしをつくる”窓や開口部の設計はどのように?

室内の人の動きやインテリアから考えています。

窓の設計にはいくつかの型がありまして。
近くに家具があるときは窓の高さをそれに合わせる。ダイニングテーブルがあれば天板の高さに合わせます。
基本的に高さ80cm以下くらいの低めの位置につける、というのもありますね。だから“変な位置に窓がある”と思われることもあります(笑)

低めにするのは、操作がしやすいように。できるかぎり“開けられる窓”にしたいのです。窓はインターフェースであり、採光や風通し、内と外との関係などいろんな機能がありますから。
高窓をつけるときも機能優先です。できるだけ嵌め殺しではなく、手動で開閉できるようにしています。

窓は住む人の暮らしに合わせて-詳細写真02

質問するたび、率直な言葉が返る。環境性能について「一般建築と違い、住宅は工学的に分析されていないので時と場合に応じて設定します」お仕着せのルールに盲従しないスタンス

建て主さんから窓に関する要望はありますか。

「窓をたくさんつけて明るくしたい」といったご希望が出ることはあります。そんなときは「じゃあ暗くしなければなりません」と話します。

全面が窓ではかえって窓を感じにくい、壁の中にあるからこそ窓を感じることができるんですよ。そう話すと、建て主さんも「そうだったのか!」と。納得していただけます。
でも、窓の設計は難しいですね。壁に対してカッコいい窓をつくりたいですね。

最近の住宅では減っている庇も、野口さんは必ずつけて設計されます。日射遮蔽に関してお聞かせください。

南面に軒を出すことをセオリーにしています。

軒は直射日光から外壁や窓ガラスを保護し、日射熱も遮断できるので熱負荷の軽減にも有効です。軒による外壁の日射遮蔽はエネルギー計算には出てきませんが。

ほかにも、雨が降っていても窓が開けられる、軒下空間という中間領域がつくれるなど、軒を出すメリットはたくさんあります。

庇についても、設計の最初からつけるイメージを持っています。
でも、庇は難しいんですよ。構造面に加えて「つけるからには深くしたいけど存在自体は消したい」という矛盾がありますから。

省エネ住宅なども多く手がけておられます。建物外皮の断熱・遮熱面におけるLow-Eガラスの採用は?

以前は“Low-Eガラスは最終手段”と考えていました。ご存知の通り、断熱性能は高くても決して万能ではないからです。
それにLow-Eガラスが登場する以前は長年、軒や庇によって直射日光は防がれてきましたからね。

しかし現代の住宅は、Low-Eガラスなしに設計できません。すっかり当たり前になりましたよね。低炭素住宅などにも欠かせない存在です。

窓は住む人の暮らしに合わせて-詳細写真04

庇へのこだわりはアトリエ入口にも

環境建築が叫ばれる今「本当のことは難しい」

SDG’sなど地球環境への視野が不可欠な時代、建築設計者としてのお考えや展望を。

“本当のことは難しい”と思っています。

環境に配慮した設計が当然いいとは考えますが、そのために必要な設備機器が実際には供給されていなかったりする。

窓で考えると、例えば断熱性能が最も高いのは木製サッシですね。しかし低炭素住宅として申請するには、メーカー発行の性能証明がある設備機器の採用が必須です。
しかし今ある木製サッシメーカーは規模が小さく、それができない。性能を証明するだけの数値がなく、参考値しか持っていないのです。
仕方なく樹脂サッシを使うことになりますが、環境面から見れば本来、樹脂素材はダメなのではないでしょうか。

同じことは太陽熱温水器などにもいえます。環境には良い設備なのに、性能についてやはり参考値しかない。現代の省エネ関連制度の中では評価されません。

現時点では、高性能住宅や環境建築として認定されるには、エネルギーに関する複雑な計算も求められます。

つまり、市場に広く出回って数値が出ているものでしか評価されない状況、ということです。言い換えれば、そのパターンにはまらない“良い建物”を評価できない。

しかし建築設計者は、そういったものをこそ本当はつくりたいんですね。

さらに、エネルギーの計算は密度の高い設計ほどしづらいという面もあります。一定以上の性能を必須とするなら、対面やオンラインによる計算関連のレクチャーなど何らかの支援があってもいいのではないでしょうか。

日本の建築界の過渡期かもしれませんね。

多くの住宅設計者は、独自にいろいろな取り組みをしています。だから、少しずつですがいい方向には向かっている、そんな気はしています。

窓は住む人の暮らしに合わせて-詳細写真05

木の建築・住空間に対する情熱はゆるぎない。最近は平屋の木造住宅を手がけることも多くなってきた

取材日
2021年3月9日
取材・文
二階さちえ
撮影
中谷正人
野口修アーキテクツアトリエ
社名
野口修アーキテクツアトリエ
URL
https://ki-no-ie.net/
住所
千葉県千葉市
社員数
2名
事業内容
住宅設計等 設計監理/戸建・マンションのリノベーション・リフォーム

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